繊維メーカー国内大手5社(東レ、帝人、東洋紡、クラボウ、ユニチカ)の15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。
業界的に苦しい展開の繊維メーカーですが、東レは一人勝ち状態。投資先としても最も有望です。一方最も高給なのは業界2位の帝人ですが、持続性はあるのでしょうか。
歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。
1. 繊維メーカーとは
繊維メーカーとは、素材としての繊維を製造・販売する業者のことを指します。上場企業分類では「繊維製品」に分類されますが、素材としての繊維をつくる繊維製造メーカーと、衣料品などの中間製品・最終製品に加工する繊維加工メーカーに分けられます。
本記事では素材産業としての繊維を扱うので、「繊維メーカー」とは繊維製造メーカーを指します。
なお一口に繊維と言っても、大きく分けて天然繊維(絹、綿、麻など)と合成繊維(ナイロン、ポリエステル、アクリル等)があります。1970年代の高度経済成長期には合成繊維と言えば化学繊維でしたが、炭素繊維も合成繊維の一種ですね。
素材メーカーとはそもそも何ぞやという事に関しては、こちらの記事をどうぞ。
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2. 繊維メーカーの分類
繊維製造メーカーは上場区分では繊維製品に分類されることが多いです。しかし繊維産業は斜陽分野で、繊維だけで生き残っている会社は少なくなっています。過去にはたくさんの繊維製造メーカーがありましたが、事業多角化などで上場企業の分類も他業種への変更が多くなっています。そこで本記事での分類を含め、いくつかの分類を紹介します。
2-1. 国内繊維メーカー大手5社
実はこの分類は筆者独断の分類です。繊維製品に分類される上場企業のうち、素材としての繊維をつくる繊維製造メーカーの売上高上位5社としました。
具体的には、東レ(東証3402、2019年度売上高2.2兆円)、帝人(東証3401、同8500億円)、東洋紡(東証3101、同3400億円)、クラボウ(東証3106、同1400億円)、ユニチカ(東証3103、同1200億円)の5社を指します。本記事での繊維大手5社の比較は、これらの5社で実施しています。
2-2. 合成繊維大手5社
合成繊維の中でも化学繊維を発祥として発展してきた大手企業です。東レ(東証3402)、帝人(東証3401)、クラレ(東証3405)、東洋紡(東証3101)、ユニチカ(東証3103)で、2015年頃まではニュースなどでも取り上げられていましたが、最近はめっきり聞かなくなりました。
ちなみにクラレは2007年より上場企業分類が繊維製品から化学に変更となっています。2019年度決算では総売上高5758億円に対して繊維セグメントは645億円。実質的には繊維メーカーというよりは化学メーカーですね。
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2-3. 繊維4社
繊維4社という括りもあります。東洋紡(東証3101)、クラボウ(東証3106)、ユニチカ(東証3103)ダイワボウHD(東証3107)の4社。繊維発祥という事で2020年現在の記事でも散見される分類ですね。
ちなみにダイワボウHDは2009年より上場企業分類が繊維製品から卸売業に変更となっています。2019年度決算では総売上高9441億円に対して繊維セグメントは717億円で、売上の9割近くはITインフラ流通事業が占めます。名実とも繊維メーカーどころか、製造業ですらない企業に生まれ変わっています。
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2-4. その他繊維発祥と言われる企業群
そのほかにも繊維発祥と言われる企業は沢山あります。超大手企業だと旭化成(2019年度売上高2.2兆円、うち繊維4361億円)、三菱レイヨン(現三菱ケミカル、同売上高3.8兆円、うち繊維非開示)、日清紡HD(同売上高5097億円、うち繊維495億円)などです。
いずれも繊維部門の存在感が相対的に小さくなったため上場区分はいずれも繊維部門ではなくなっています。従来の天然繊維や化学合成繊維のみでは、素材そのものの付加価値を出すのが難しい分野ということの表れですね。本記事はIRデータの推移比較なので、事業形態について詳細は割愛します。
3. 繊維メーカー大手4社の15年推移を徹底比較
繊維メーカー国内大手5社(東レ、帝人、東洋紡、クラボウ、ユニチカ)の各種指標の15年間推移を徹底比較します。15年間推移を確認している理由は、企業体質の本質を見るためにアベノミクス以降の好景気では不十分と考えているからです。経営危機であるリーマンショック前後の挙動で、伝統ある企業体質が如実に表れると考えています。
また様々な指標から確認することで、各企業の強み・弱みが見える場合もあります。投資や転職などリスクある判断をする場合には丁寧に見ておきたいところです。
筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっています。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。
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3-1. 比較①:株価推移
リーマンショック後の底値付近である2009年2月を100としたときの指数で表して比較してみます。リーマンショック前後を含めた過去15年間の推移を見てみましょう。
ベンチマークとして日経225平均も入れてあります。2021年3月末現在(グラフ右端)、残念ながら日経平均から全社アンダーパフォームです。
リーマンショック後の底値である2009年2月を100としたとき、2023年2月末時点で日経平均344に対して業界最大手の東レで208、業界2位の帝人で165。日経平均の半分に近い水準です。クラボウ、東洋紡はリーマンショック前よりもやや上回る水準、ユニチカに至っては4割以下です。繊維メーカーは材料そのもので年々付加価値を出すのが難しくなっている業種と言えそうです。
3-2. 比較②:自己資本比率の推移
重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。
業界4位のクラボウが長期推移でも最も高い自己資本比率となっています。2000年代から繊維産業への危機感からキャッシュを厚めに確保する経営方針を取っているのでしょうか。
東洋紡はリーマンショック以降自己資本を厚めに確保する方針がはっきり表れていますね。業界最大手の東レと帝人は手堅く30~40%を保っていて、数字上の財務はまずますです。
ユニチカは2000年代から既に綱渡り経営を続けている様子。2014年度の自己資本比率増はA種、B種、C種の種類株式発行での増資で375億円注入しているため。抜本的な経営体質の改善まではまだ時間がかかりそうな印象です。
素材としての繊維メーカーは業界全体としてかなり苦しい業種。投資家目線では東レ・帝人がハイリスクながらもギリギリ投資価値あり、その他3社は投機的水準と言えます。
3-3. 比較③:連結従業員数の推移
連結従業員数の比較です。斜陽産業である繊維業界の特徴がしっかりと表れている指標のため、確認しておきましょう。2005年度の連結従業員数を100としたときの指数での推移比較、連結従業員数の単純な推移比較の2つを見てみます。(図は各社有価証券報告書から素材さん作成)
東レだけが単調増加でしっかり従業員数を増やしています。リーマンショック後の苦しい時期にも従業員を絞ることなく、事業拡大に伴う増員を計画的に実施していることが読みとれます。
東レ以外の4社は基本的に単調減少基調で、繊維産業の競争力低下に伴い人員を縮小していることが読み取れます。数千人規模の企業がたった15年で連結従業員数の30%減るってすごいインパクトです。なお2016年度の帝人の従業員増は、北米最大の自動車向け複合材料成形メーカーである米CSP社(コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス社、従業員数約3200名)の完全子会社の影響です。(買収額8.3億ドル)
3-4. 比較④:連結売上高の推移
3-4-1. 連結売上高の指数化による比較
2005年度の売上高を100としたときの推移を確認します。最大手東レのみ右肩上がり、クラボウは何とか横ばいを保っているという状況。圧倒的な東レの一人勝ちですね。
業界2位の帝人と3位の東洋紡はジリ貧の様相で、繊維名門であったユニチカは繊維へのこだわりで経営多角化が遅れ大幅減です。素材分野は域の長い研究開発が求めらえる産業であり、ここまで来てしまったユニチカはソフトランディングを考えた経営を目指すフェイズに入っているのかもしれません。
3-4-2. 連結総売上高の絶対額比較
連結総売上高の絶対額推移も合わせて載せておきます。他業界では売上高と企業の未来は必ずしも一致しませんが、繊維メーカーは最大手東レの一人勝ちの様相は変わりません。素材としての繊維で稼ぐための投資資金力、選択と集中の経営が効いているのでしょうか。
業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。
ちなみに僕が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。業界として拡大が続く中で中途採用も増えていますが、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。
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3-5. 比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移
従業員1人あたりの売上高推移の比較結果を確認します。労働効率、労働環境などは単なる売上高だけでは見えず、従業員一人当たり売上高を確認することで分かることもあります。ビジネスモデルにも大きく依存する指標なので一概には言えない部分もありますが、一つの指標としてみてみましょう。
長期推移でみると、東レ、クラボウの右肩上がり傾向が見えます。東レは増員しながらもそれを上回る売上となっていて、生産性を高めているのでしょうか。クラボウは総売上はそれほど変化していないので、従業員を絞って1人当たりの生産性を高めてきたことが読み取れます。両社とも労働者としての負荷は大きいことが予想されます。
東洋紡はほぼ横ばい、帝人とユニチカは微減傾向となっています。先の2社もそうですが売上高だけでは判断できないので、他の指標と合わせて判断したいところですね。
3-6. 比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移
従業員1人あたりの営業利益額推移の比較結果を見ると景色が一転します。効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。
長期推移でみると、東レ、帝人がやや多くなっています。東洋紡と経営危機のユニチカは同程度。クラボウは相対的に付加価値の小さいビジネスで、利益体質に余裕のない経営をしていることが読み取れます。
なお直近15年間でみると、東洋紡は約15%、クラボウ・ユニチカは約30%もの従業員減となっています。天然繊維や一般化学繊維における日本国内でのビジネスは、絶望的なほど付加価値が認められない環境になっていると言えそうです
3-7. 比較⑦:従業員1人当たり平均年収の推移
各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。ここが一番気になるという方も多いのではないでしょうか。有価証券報告書をもとに一応データとして載せましたが、実際には諸手当などで如何様にでも調整できる指標です。あくまで同一会社内での時系列変化のトレンドくらいしかわかりません。
年収推移グラフでのチェックポイントは2点、リーマンショック前後での変動幅、アベノミクスでの好況期での右肩上がりの傾きです。リーマンショック前後での変化が小さいのは東洋紡とクラボウ。絶対額として高水準とは言えませんが、生活設計を考える上で浮き沈みが小さいのは従業員としてはいいのかもしれません。
一方業界2位の帝人は絶対額としては高水準ですが、変動が大きく従業員目線では業績に対して敏感になりがちです。東レはリーマンショックで大きく下げましたが、戻りが早くその後の好況期にも順調に伸ばしていてます。先に述べた各種指標と合わせて考えても、安定感があると言えそうです。
なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。繊維業界は素材業界の中でもそれほど給与水準が高くない業種ですが、素材業界特有の住宅関連の福利厚生は含まれていない点に留意する必要があります。
有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。
4. 繊維メーカー大手5社の財務比較
各社の財務状況と事業内訳を確認してきます。財務状況はキャッシュフロー(営業CF、投資CF)と営業利益率の15年推移を示しました。各社の部門別売上高長期推移と繊維・非繊維での営業利益率推移も調査しました。
また気になる年収と1人当たり連結売上高と営業利益額の推移についても合わせて記載してあります。
4-1. 東レ ~炭素繊維の雄~
国内最大手の東レ、英語名称はtorayですね。素材産業は製薬企業ほどではないものの、息の長いR&DなのでIR情報は長期的に確認する必要があります。
例えば近年話題の炭素繊維では、PAN系炭素繊維(登録商Torayca)の商用生産開始は1971年。それから航空機メーカーのBoeing社1次構造材に採用されたのは、約20年後の1990年という事からも息の長さが伺えます。2018年には炭素繊維複合材の蘭TACHD者を1200億円で買収するなど、自社にとって不足のある分野をM&Aで対応する柔軟さも持ち合わせています。
その一方従来の繊維製品関連では2006年にユニクロ(当時は2021年現在の10%の時価総額)とパートナーシップを結ぶなど、手堅い開発を進めながらも素材産業の中でも先進的な経営を進めてきました。平均年齢も2019年度で38歳と他の4社と比較してもかなり若くなっていて、社内に活気もありそうです。
リーマンショックでの需要減退で純利益でも赤字を出しました。しかし他の4社ほど傷口は大きくなく、最小限の減配に留める等株主への配慮も怠っていない様子。下火と言われる繊維事業でも売上を伸ばしつつ、一定の営業利益率も保っています。また水処理膜製品を含む環境・エンジニアリング事業も着実に成長させていて、着実な経営多角化も進めてきました。コロナショックで航空機需要減衰に伴う打撃は大きそうですが、分散されたポートフォリオで繊維産業とは思えない安定感を保ちそうです。
また従業員目線で気になるのは売上・利益とお給料の関係。リーマンショック後には落ち込みを見せましたが、戻りも早かったようです。業績と年収の関係は連動していそうですが、業績の落ち込みにくい分安心して働けそうです。これも息の長い素材産業としての強みに繋がっているのかもしれません。
有価証券報告書からの財務データ読み取りは、中堅クラス以上の社会人にとっては必須のビジネススキルです。筆者は下記の本で勉強しました。基本的な内容が簡潔に網羅されている良書です。
4-2. 帝人 ~繊維からヘルスケアへ~
東レに続いて繊維業界2番手ですが、東レと比較すると浮き沈みが大きく安定感に欠ける印象です。キャッシュフォローはリーマンショック後の投資圧縮で一見良さそうに見えますが、息の長い素材産業故に数年後に痛手を蒙らないか心配になってきます。
実際に炭素繊維の開発は大きく後れを取っていていました。結局時間をお金で買う戦略で、エアバス社へのPAN系炭素繊維納入実績があった東邦レーヨン社(現東邦テナックス)へ1999年に出資。2018年4月に吸収合併・完全子会社化して炭素繊維事業を傘下に治めました。2016年にも複合材料成形メーカーである米CSP社を完全子会社(買収額8.3億ドル)するなど、M&Aに多くの金額を投入しています。
リーマンショック時の赤字幅も大きく、2012年には220億円ののれん減損を含めて低空飛行が続きました。繊維・非繊維とも東レより営業利益水準に劣る時代が長く続きました。一方でヘルスケア部門は少しずつ売上を伸ばし、従来の繊維製品の衰退に変わる種まきもある程度進めている様子。
また営業利益の乱高下で年収の変動も大きくなっています。リーマンショック後は勿論、その後の低空飛行時代もしばらく尾を引きました。絶対水準自体は高いので均せば東レと同等以上ですが、やや安定感には欠ける印象です。ただ1人当たり売上微減傾向にもかかわらず1人あたり営業利益は大きく落ち込んでいないので、しっかり付加価値を出す体制はありそうです。
4-3. 東洋紡 ~まったり社風で品質問題に揺れる?~
戦前どころか19世紀からの歴史を誇り、最大手2社よりも相対的に繊維事業縮小の影響が大きい東洋紡。伝統ある繊維事業への依存脱却を進め、2002年には繊維事業を上回る非繊維事業の売上を誇るまでになりました。しかしアベノミクス景気でもリーマンショック前を超えることはなく、繊維産業の凋落の一端が垣間見えます。繊維の売上・利益率低下も歯止めが効いていません。
2019年には帝人からポリエステルフィルム事業を100億円で譲り受けるなど、フィルム・機能性樹脂の売上・利益率を伸ばしてきています。非繊維の利益率が好調ですが、2021年にUN規格での品質問題を起こしたのがこの機能樹脂。繊維を主体とした全社売上と営業利益率が下げ止まらず、上層部からも失敗が許されない圧力があったのかもしれません。(※直近5年間でセグメント変更が2回あり、適切な推移比較ができないため、2020年以降の部門別利益率推移は示していません)
気になる年収ですが、それほど高水準ではありませんが業績による変動幅はかなり小さいことが特徴。ここまで年収に安定感があると危機感も出にくいかもしれません。会社が儲かっても儲からなくても変わらない給料、公務員みたいな給与体系なのでしょうか。傍目に見ると真面目に仕事するのが馬鹿らしくなってきそうです。復活には経営陣だけでなく従業員1人1人の危機感が必要なのかもしれません。
4-4. クラボウ ~苦しい天然繊維、営業利益の半分は不動産から~
大手5社の中では天然繊維と紡績が主体のクラボウ。投資が少なくても成り立ちそうなイメージですが、営業利益率の長期低迷と関係があるのでしょうか。
キャッシュフローは営業CFリッチで、絶対額は少ないものの比較的よい形をしています。リーマンショックでは好況期の2倍もの赤字。不況体制は弱めですが、それでも繊維事業の万年赤字体質に比べれば軽微と感じてしまいます。近年のフリーキャッシュフローは債務返済に充てられていて、事業縮小に伴う負の遺産整理を進めている状況でしょうか。
特筆すべきなのは繊維事業は15年平均で赤字ということ。2009年には岡山工場(デニム糸)、津工場(羊毛紡績)、2013年には北条工場(愛媛県松山市、綿合紡糸)2020年には丸亀工場(伸縮糸、中綿)と立て続けに工場閉鎖を続けても足りないくらい厳しい事業環境。
繊維部門では7人もの社員が2011年から2015年決算で計4億円の利益水増しに関与、ゾンビ事業を継続することのリスクをも感じさせる状況です。天然繊維、化学合成繊維のような「レガシー繊維」生産はもう日本ではやっていけないんでしょう。
因みに非繊維事業は高利益率ですが、撤退した工場跡地の賃貸収入です。有名なのは倉敷工場跡地の倉敷チボリ公園(2008年廃園)、現在は三井アウトレットパークですね。営業利益率は凡そ50%で、好況期でも営業利益の半分以上は不動産事業。安定したキャッシュインで首の皮1枚繋いできている印象ですね。
従業員1人あたりの営業利益は100万円を切ってくるほどの水準で、繊維事業はもう限界突破しています。環境メカトロニクス事業での工作機械、エンジニアリング、遺伝子受託解析は着実に伸ばしてきていて、1人あたり売上、営業利益も増加傾向にあるのは良い兆候。繊維から新事業へのバトンタッチに期待です。
4-5. ユニチカ ~「名門」は万年経営危機状態から抜け出せる?~
ニチボーと日本レイヨンの2つの系譜の合併会社が発祥のユニチカ。明治・大正時代から続く歴史ある繊維企業です。ユニチカが取り上げられると必ず「繊維の名門」という言葉がセットで紹介されてますね。
それだけ繊維依存からの脱却が遅れ、自己資本比率1桁の経営危機が長く続きました。2015年には種類株式での増資をし、藁を掴む思いでの綱渡り。キャッシュフローは債務返済に充てられていて、表向きのキャッシュフローとは違って逼迫した経営が続いています。リーマンショック前の2008年以降配当も一切出ていません。むしろ2007年まで配当出していたのが信じられないくらいですが。
会社分割と吸収合併を繰り返し、小手先の経営で何とかしようとしてきた意図が見え隠れします。
部門別売上を見ると、繊維事業は赤字と黒字を行き来しながら15年間で半分に。「2018年3月期の売上高では、祖業である繊維事業を高分子事業が上回った」と誇らしげなトップインタビューがありますが、実態は繊維以外の高分子や機能材などが育っているわけでもなく衰退の一途を辿っています。非繊維の営業利益率が比較的高位安定なのがせめてもの救いですね。
2015年の増資以降財務体質も改善が進み、苦しい経営の中でも社員への還元も何とか頑張っている様子が伺えるのは好感が持てます。かつての名門の今後のかじ取りに期待ですね。
5. 結論:繊維メーカー業界は東レ一択
繊維業界では知名度No.1の東レが実力・安定感ともダントツトップ、というあまり面白くない結果となりました。業界全体としては先細りですが、東レだけは繊維事業のプレゼンスを保ちながら業界をリードできそうです。
次点は炭素繊維で繊維事業の延命とともに次世代ヘルスケア事業の成長途上で、従業員給与水準の高い帝人。その他3社は様々な施策を以てしても投機的水準を脱するにはもう少し時間が必要です。
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