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企業分析

【8社徹底比較】非鉄大手なら住友金属鉱山一択も、業界の先行きは暗い

非鉄メーカー国内大手8社を徹底比較しました。住友金属鉱山、東邦亜鉛、DOWAホールディングス、JX金属(ENEOS傘下)、日鉄鉱業、古河機械金属、三井金属鉱業、三菱マテリアルの8社の中でも、住友金属鉱山がダントツトップ。売上高トップの三菱マテリアルは低迷している様相。

素材メーカーの中でも資源権益も絡んでいて比較的羽振りの良い非鉄メーカーですが、必ずしも売上規模と関連していないのも興味深いところ。IR情報15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。

歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。

目次

1.非鉄金属メーカーとは

2. 非鉄金属業界の大手メーカー分類
 2-1.非鉄大手8社(非鉄精錬大手8社)
 2-2.非鉄7社
 2-3.非鉄金属大手6社
 2-4.非鉄金属大手4社

3. 非鉄大手8社を徹底比較
 3-1.比較①:株価推移
 3-2.比較②:自己資本比率の推移
 3-3.比較③:連結従業員数の推移
 3-4.比較④:連結売上高の推移
 3-5.比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移
 3-6.比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移
 3-7.比較⑦:従業員の平均年収推移

4.塗料大手5社の財務比較
 4-1.住友金属鉱山
 4-2.三菱マテリアル
 4-3.三井金属鉱業
 4-4.DOWAホールディングス
 4-5.古河機械金属
 4-6.日鉄鉱業
 4-7.東邦亜鉛
 4-8.JX金属

5.結論:非鉄大手8社なら住友金属鉱山一択

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1. 非鉄金属メーカーとは

金のインゴット写真
金のインゴット(田中貴金属HPより)

非鉄金属メーカーとは、鉄以外の鉱工業関連素材である金属そのものや、金属の加工製品を製造・販売する会社を言います。貴金属である金・銀・プラチナ・パラジウムもそうですし、景気の先行指標である銅をはじめ、ニッケル、亜鉛、アルミニウムの鉱石などから地金を作る精錬をする上流企業と、それらを熔解・合金化・圧延・伸線・切削などをする最終製品に近い下流企業があります。

特に上流企業は素材産業の中でも地味な業界ですね。鉱山から鉱石掘って、精錬して純度を高めた金属塊(金属インゴット、地金とも言う)をつくるのは主に非鉄大手8社(後述)を始めとした大手企業が多く手掛けています。地金を使った金属加工は比較的多くの企業が存在します。例えば非鉄金属の加工製品を扱うのは電線業界などがあげられます。

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素材メーカーとはそもそも何ぞやという事に関しては、こちらの記事をどうぞ。

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2. 非鉄金属の大手メーカー分類

非鉄金属の中でも特に大規模な精錬を行う企業は設備面や安全管理面で参入障壁が高く、歴史のある大手企業が手掛けていることが多いです。そこで本記事での分類を含め、いくつかの分類を紹介します。

なお筆者は素材産業で3社の内情を知る材料開発エンジニアです。そんな筆者の2回目の転職記に興味がある方はこちらもどうぞ。

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2-1. 非鉄大手8社(非鉄精錬大手8社)

JMIA(日本鉱業協会)が定める会員企業のうち大手8社を言います。住友金属鉱山、東邦亜鉛、DOWAホールディングス、JX金属(ENEOS傘下)、日鉄鉱業、古河機械金属、三井金属鉱業、三菱マテリアルの8社ですね。鉄以外の金属を扱う企業のうち金属精錬を行っている企業を指すことから、非鉄精錬大手8社とも言います。

本記事での非鉄金属大手8社とはこの分類を指します。なおJX金属はENEOS傘下で開示情報が少ない為、比較情報は限定されます。

https://www.kogyo-kyokai.gr.jp/category/1850698.html
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製錬8社下期生産計画 銅・亜鉛・鉛いずれも増 | 鉄鋼・非鉄金属業界の専門紙「日刊産業新聞」
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2-2. 非鉄7社

非鉄大手8社のうち、ENEOSホールディングス(東証5020)傘下のJX金属(2019年度売上高1兆900億円)を除いた7社を指します。売上規模自体は三菱マテリアルに続いて2位ですが、非上場のため非鉄金属大手4社には含まれません。しかしJX金属は非鉄金属の中でもウェイトの大きい銅精錬で存在感が大きく無視できないため、最近はあまり使われません。

非鉄7社、全社が最終損益改善 4~12月: 日本経済新聞
非鉄7社、全社が最終損益改善 4~12月: 日本経済新聞

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2-3. 非鉄金属6社

非鉄7社から亜鉛・鉛を主軸とする東邦亜鉛を除いた6社を指します。住友金属鉱山、DOWAホールディングス、日鉄鉱業、古河機械金属、三井金属鉱業、三菱マテリアルの6社ですね。銅を始めとして様々な非鉄金属を扱い、単独の上場非鉄金属企業としての分類として、日経や日刊工業新聞などで使われる表現です。

非鉄金属6社の通期見通し、4社が減収 コロナで世界経済停滞 | 日刊工業新聞 電子版
非鉄金属6社の通期見通し、4社が減収 コロナで世界経済停滞 | 日刊工業新聞 電子版

非鉄金属大手6社の2021年3月期連結業績は三井金属、DOWAホールディングス(HD)を除く4社が減収を予想する。新型コロナウイルスによる世界的な経済活動停滞を背景に厳しい経営環境が続く。自動車市場は ...

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2-4. 非鉄金属大手4社

日経ニュースなどで取り上げられる分類で、上場企業のうち売上高上位4社を言います。具体的には、三菱マテリアル(東証5711、2020年度連結売上高1兆4900億円)、住友金属鉱山(東証5713、同9300億円)、DOWA(東証5714、同5900億円)、三井金属鉱業(東証5706、同5200億円)、の4社を指します。

非鉄大手4社が下方修正、19年3月期最終 市況悪化で: 日本経済新聞
非鉄大手4社が下方修正、19年3月期最終 市況悪化で: 日本経済新聞

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3. 非鉄大手8社の15年推移を徹底比較

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属鉱業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)の各種指標の15年間推移を徹底比較します。15年間推移を確認している理由は、企業体質の本質を見るためにアベノミクス以降の好景気では不十分と考えているからです。経営危機であるリーマンショック前後の挙動で、伝統ある企業体質が如実に表れると考えています。

なおJX金属はENEOS傘下非上場企業のため、ENEOSホールディングスの有価証券報告書で開示されている売上高、営業利益、連結従業員数のみの比較としました。

また様々な指標から確認することで、各企業の強み・弱みが見える場合もあります。投資や転職などリスクある判断をする場合には丁寧に見ておきたいところです。

筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっています。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。

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3-1. 比較①:株価推移

リーマンショック後の底値付近である2009年2月を100としたときの指数で表して比較してみます。リーマンショック前後を含めた過去15年間の推移を見てみましょう。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属鉱業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、JX金属を除く7社の日経225平均株価の2005年4月から2021年4月までの株価推移を比較した図

非上場のJX金属を除き、7社とも日経225平均から大幅アンダーパフォームです。住友金属鉱山、DOWA、三井金属鉱業は比較的頑張っています。しかし売上高7位の東邦亜鉛はともかく、売上高1位の三菱マテリアルもリーマンショック底値と同水準なのは興味深いところですね。

また非鉄各社は2000年代の資源バブルでの株価高騰の恩恵もあって、長期保有ではほぼ報われない結果となっています。長期推移でも比較的高位安定で乱高下が少ないのは住友金属鉱山だけですね。それでもやはり物足りない印象ではあります。

3-2. 比較②:自己資本比率の推移

重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属鉱業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、JX金属を除く7社の2005年から2020年までの自己資本比率推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

銅鉱山権益投資での影響を大きく受けた三井金属鉱業、2010年代に業績不振となっている東邦亜鉛を除き、業界全体として長期では右肩上がりトレンドで高め推移となっています。特に鉱山への投資となると会社の存続に関わる事態となる為、「平時」はできるだけキャッシュを蓄えておきたいのかもしれません。ここでも業界トップの三菱マテリアルの自己資本比率が最下位である点には注目すべきでしょう。

非鉄大手は規模の大小に関わらず財務的には総じて一般的水準。資源高の影響でしょうか、リーマンショック後の落ち込みが比較的小さい企業が多いのは景気動向を受けやすい素材業界の中では特異的かもしれません。

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3-3. 比較③:連結従業員数の推移

連結従業員数の比較です。2005年度の連結従業員数を100としたときの指数での推移比較、連結従業員数の単純な推移比較の2つを見てみます。

業界売上トップの同2位のJX金属、業界4位のDOWAは相対比較で従業員数が大幅増。ざっくり15年間で約2倍になっています。三菱マテリアルも増加比こそ50%ですが、もともと約2万人規模だったので絶対数のインパクトは大きいですね。

従業員規模を唯一減らしているのが住友金属鉱山。自己資本比率でも長期的に高位安定かつ株価も非鉄金属業界で頑張っているだけに、非常に興味深いところです。業界全体の先行きがあまり明るくない、海外企業と比較して将来的に競争力を保つのが難しい、鉱山を始めとした投資リスクを嫌悪している、などの理由で採用を抑制している可能性があります。

3-4. 比較④:連結売上高の推移

連結総売上高の絶対額推移も合わせて載せておきます。営業利益を含め他の指標と組み合わせて判断したいところですが、業界の規模感や増減は分かりやすいです。特に従業員数の増減とは無関係で、売上高がほぼ横ばいとなっているのが特徴的です。

また資源バブルであった2007年の上昇幅の大きい三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山は、売上高変動が大きくなりやすい資源の影響を受けている可能性が考えられます。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属鉱業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、2005年から2020年までの連結売上高推移を比較した図
各社有価証券報告書か素材さん作成

業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。

ちなみに僕が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。業界として拡大が続く中で中途採用も増えていますが、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。

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3-5. 比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移

従業員1人あたりの売上高推移の比較結果を確認します。塗料業界はM&Aが活発過ぎて実態が見えにくい為、従業員一人当たり売上高を確認することで分かることもあります。ビジネスモデルにも大きく依存する指標なので一概には言えない部分もありますが、一つの指標としてみてみましょう。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属鉱業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、2005年から2020年までの従業員1人当たりの売上高推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

長期推移でみると、JX金属の大幅な右肩下がりトレンドが特徴的ですね。それでも1人当たり売上げはまだまだ高い方ですが、汎用品でボリュームの多い銅精錬を主軸としているため利益水準と合わせて確認する必要があります。東邦亜鉛は高位安定ですが、業績長期低迷も考慮すると、やはり高価格原料と汎用品のボリュームが売上高を押し上げている側面はあると言えそうです。ニッケルに強みを持ち、好業績が続く住友金属鉱山も同様ですね。

他の5社(三菱マテリアル、三井金属鉱業、DOWA-HD、古河機械金属、日鉄鉱業)は比較的1人あたり売り上げは低くなっています。なかでも資源バブル色が強い2007年前後の売上が比較的緩やかである三井金属鉱業、日鉄鉱業は資源価格と売り上げが連動しにくいビジネスモデルになっている可能性もあるでしょう。

3-6. 比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移

従業員1人あたりの営業利益額推移の比較結果を見ると、業界の光と闇が見えてきました。効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属工業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、2005年から2020年までの従業員1人当たりの営業利益額推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

ここでもダントツトップは住友金属鉱山。従業員数を減らしながらも1人あたり営業利益率では高水準を保っています。日本の非鉄金属業界の先行きの暗さを象徴する現象なのかもしれません。またJX金属や東邦亜鉛の業績の振れ方は資源価格、特に亜鉛価格に大きく依存しているのでしょうか。山は高い一方で谷も深い、そんな業界の様相が表れていると言えそうです。

3-7. 比較⑦:従業員1人当たり平均年収の推移

各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。ここが一番気になるという方も多いのではないでしょうか。有価証券報告書をもとに一応データとして載せましたが、実際には諸手当などで如何様にでも調整できる指標です。あくまで同一会社内での時系列変化のトレンドくらいしかわかりません。

国内非鉄大手8社(三菱マテリアル、JX金属、住友金属鉱山、三井金属工業、DOWAホールディングス、古河機械金属、日鉄鉱業、東邦亜鉛)について、JX金属を除く7社の2005年から2020年までの従業員平均年収推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

年収推移グラフでのチェックポイントは2点、リーマンショック前後での変動幅、アベノミクスでの好況期での右肩上がりの傾きです。各社ともリーマンショックでは100万円程度の年収減となっていて、景気動向の波を大きく受けることが読み取れます。また業界売上高トップの三菱マテリアルが伸び悩んでいる点も見過ごせません。

リーマンショック後よりも高値推移しているのは、住友金属鉱山、古河機械金属、日鉄鉱業の3社。他の指標と合わせて考えても住友金属鉱山は圧倒的ですね。これだけ好調に見えても、業界で唯一従業員総数を減らしている点も、非鉄金属業界の見通しが明るくないことを示す一つの証左なのかもしれません。

なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。化学以外の素材業界はそれほど高給ではありませんが、特有の住宅関連の福利厚生は含まれていない点に留意する必要があります。

有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。

4. 非鉄金属大手8社の財務比較

各社の財務状況を確認してきます。財務状況はキャッシュフロー(営業CF、投資CF)と営業利益率の15年推移を示しました。素材産業の中でも貴金属や銅・ニッケルなどの資源価格の在庫影響を受けやすい非鉄業界。IR情報を長期的に確認することで業界の波が感じ取れるため、15年推移としました。

4-1. 住友金属鉱山

売上規模では三菱マテリアル(2020年度1.5兆円)、JX金属(同1.1兆円)に続き業界3位(同9300億円)の住友金属鉱山。しかし1人当たり売上高、1人あたり営業利益額を始めとし、各種経営指標ではダントツの首位です。

11年に参画し31.5%を出資するシエラゴルダ銅鉱山では、2015、2016年度の2年間で約1500億円もの減損損失を計上するなど、決して順風満帆とは言えません。ただJX金属も2011年に投資したチリ銅鉱山にて10年間で2700億円減損損失計上していますし、三菱商事なども銅鉱山で痛手を蒙ってきました。中国との資源争いで高値掴みをしたのは住友金属鉱山だけの問題ではなく、資源業界全体の闇の深さが感じられます

しかし部門別にみると、基本的には精錬での堅実な稼ぎをベースとし、電池関連をはじめとする材料部門の柱もしっかりしていることもわかります。また日本で唯一商業規模での金生産をしている菱刈鉱山を運営し、売上規模の半分程度を金銀鉱製品が占める資源部門を持つことも特徴です。売上こそ多くありませんが、営業利益率は33%~76%で推移。依存度は高くないもののしっかりキャッシュを生む事業として位置づけられていることが読み取れます。

住友金属鉱山における、2011年度から2020年度までの部門別売上と営業利益率推移を示した図。

資源関連の減損での赤字は最小限度に留めた上で、先行投資でしっかり利益を確保してきています。足元投資CFは抑え気味となっていますが、2020年度決算でも減少分は今後の投資に充てると明言。今後も優秀な少数精鋭の従業員で、賢い経営を続けていきそうです。

有価証券報告書からの財務データ読み取りは、中堅クラス以上の社会人にとっては必須のビジネススキルです。筆者は下記の本で勉強しました。基本的な内容が簡潔に網羅されている良書です。

4-2. 三菱マテリアル

業界売上は1位ながらも株価、営業利益と低迷が続く三菱マテリアル、通称三マテ。リーマンショックで大きく落ち込み、その後の大幅な投資圧縮でキャッシュと利益を捻出してきました。

そのツケもあったのでしょうか、2017年からは品質不正が立て続けに明らかになるとともに、営業利益率をはじめ業績も低空飛行しています。度重なる投資圧縮で現場が無理をして、品質不正の温床となる組織文化が形成されてしまった可能性もあるでしょう。

また部門別売上と営業利益率を見ると、いずれも近年右肩下がり傾向となっています。「1位でない事業の寄せ集め」で総合1位になっていると揶揄されるように、どの事業でも覇権を取れてない様子。売上比率の高い銅精錬を主軸とする金属事業は、住友金属鉱山、次いでJX金属と三井金属鉱山合弁のパンパシフィックカッパーについで国内3位。また利益を取りやすいとされる銅加工、アルミ、電子裁量からなる高機能製品も10年以上営業利益率5%未満で右肩下がり傾向。セメントや加工事業も軒並み利益率低下に苦しんでいます。

三菱マテリアルにおける、2011年度から2020年度までの部門別売上と営業利益率推移を示した図。

2017年以降は投資CFも戻ってきつつありますが、寄せ集めコングロマリット型で非鉄金属業界の覇権を取るのは至難の業のようです。上手くいったとしても業績浮上まではもう少し時間がかかりそうです。

4-3. 三井金属鉱業

財閥系ながらも、2021年売上高では非財閥のDOWAに抜かれて業界5位に転落した三井金属鉱山。住友金属鉱山と同様に銅権益関連の減損処理に長年苦しんできました。2006年にJX金属、三井物産との合弁で銅権益を取得しましたが、全てJX金属に譲渡し大規模権益からは足を洗う選択をした様子。

電池材向け粉体材料に加えて、銅箔、触媒、薄膜材料を含めた機能材料全般の足場と高利益率に支えられている構図。金属事業は銅・亜鉛の精錬事業がメインですが、銅相場影響や銅鉱山関連の減損に苦しめられてきました。

三井金属鉱業における、2011年度から2020年度までの部門別売上と営業利益率推移を示した図。

ドアロックを主軸とする自動車部品事業もマージンが取りにくい様子で、銅鉱山から撤退し他後も機能材料1本脚からなかなか抜け出せずにいます。2020年度決算でも自己資本を固めつつ次の会社の方向性を見極めると明言しており、暫く迷走気味になりそうです。

4-4. DOWAホールディングス

JX金属同様、直近15年間で大幅に従業員数を増やし、2020年度決算の売上高では三井金属鉱業を抜いて万年5位から脱出しました。ESG(Environment、Social、Governance)重視の追い風を受け、環境・リサイクル事業で市場成長を着実に取り込んできました。

従来の銅、亜鉛精錬に加え、レアメタル精錬にも強みを持つ同社。競争力が落ちていている金属箔やめっき関連事業を延命しつつ、精錬事業で着実にキャッシュを稼いでいます。また電子材料や環境・リサイクル分野への投資も続けてきました。

DOWAホールディングスにおける、2011年度から2020年度までの部門別売上と営業利益率推移を示した図。

資源バブルで美味しい思いをした時期と比べると見劣りしてしまいます。また電子材料分野では売上こそ伸びていますが、市場の流れから先行しすぎているのでしょうか、利益はまだまだ追いついてきていません。

精錬や環境リサイクルといった得意分野でキャッシュを稼ぎながら、電子材料の柱をどこまで固められるか。ややハイリスクですが今後の動向に注目したいところです。

4-5. 古河機械金属

創立140年を超える、歴史ある古河機械金属。非鉄金属事業は中核事業子会社である古河メタルリソースが担っています。非鉄金属らしく銅鉱山への投資もさることながら、産業機械やロックドリル、ユニックなど機械事業のウェイトが大きいのも特徴。素材分野である金属部門、電子部門、化成品部門のうち、近年安定的な利益を出せているのは化成品部門のみで、実質的には「非鉄金属」部品の色が強くなっています。

資源バブル崩壊とリーマンショックでの産業機械のダブルパンチで痛手を受けました。非鉄金属業界にしては珍しく、身の丈に合った投資CF。ニッチ分野でどこまで利益を伸ばしていけるか

4-6. 日鉄鉱業

官営八幡製鉄所を源流とし、現日本製鉄の鉱山部門が独立してできた日鉄鉱業。「鉄」の名を冠していますが、現在は鉄鋼そのものは扱っていません。鉄鋼生産に不可欠な石灰石の採掘に加え、電気銅との2本柱で事業を営んでいます。

セメント会社とは独立して石灰石を生産する得意な業態が特徴。日本の年間生産量の1億7千万トンのうち、2.4千トン(14%)を誇ります。収益性やCFバランスは良好ですが、鉄鋼メーカー、セメントメーカーを顧客とする石灰石、経済の先行指標とも言われる銅と外部環境に依存するビジネスモデル。収益性やキャッシュ創出能力は十分ですが、顧客が儲かっているときに粛々と利益を上げる業態は今後も続きそうです。

4-7. 東邦亜鉛

亜鉛関連の精錬が売上の7割を占める東邦亜鉛。亜鉛鉱に含まれる鉛や銀を生産していることも特徴です。亜鉛の資源・精錬一本足から抜け出せず、市況に業績が大きく振り回され続けてきました。

精錬所への原料確保の安定化をめざし、上流の鉱山事業投資として2010年に豪CBH社の完全子会社。約200億円と同社としては大規模投資でしたが、亜鉛関連についてもメジャー企業の寡占化傾向が伺われる傾向。亜鉛一本足から抜け出したい思いは経営陣・社内には十分にありそうです。

トップメッセージとして次の一手を強調していますが、電子部材、環境・リサイクル、エンジニアリングは2桁億円レベルと思ったほどの成長に結びついていません。事業の柱になるまでの道のりは険しそうです。

4-8. JX金属

JX金属はENEOS傘下であり、単体としてのキャッシュフロー情報は非開示となっています。しかしENEOSホールディングス(旧JXTGホールディングス)で開示されている営業利益額の推移を比較してみました。

JX金属における、2011年度から2020年度までの部門別売上と営業利益率推移を示した図。

個別事業の売上高は非開示なので営業利益率こそ分かりませんが、近年機能材・薄膜材などの高機能金属加工製品での営業利益を伸ばしてきています。また精錬でも着実な足固めをしていることが読み取れます。

前身の日鉱金属時代は資源で荒稼ぎしていましたが、資源一本脚からの脱却を進めていることが分かります。比較⑥で示したように従業員数の伸びに対して営業利益の伸びが追いついていないですが、着実な利益体質を固めている最中なのでしょうか。今後の躍進に期待したいところです。

なおENEOSを含む素材株の比較分析も別記事にて紹介しています。よろしければ合わせてどうぞ。

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5. 結論:非鉄大手8社なら住友金属鉱山一択

住友金属鉱山の企業ロゴ

非鉄業界の中でも精錬を手掛ける非鉄8社では、売上規模・株価とも住友金属鉱山が実力・安定感ともダントツトップです。逆に業界売上1位の三菱マテリアルは業界トップ事業を抱えておらず後塵を拝しています。

しかしその住友金属鉱山も積極的な規模拡大に動いていないことからも、業界の先行きはそれほど明るくないのかもしれません。その他6社も非鉄金属としての「同業他者」でありながら、事業棲み分けがされている模様。

世界的な資源メジャー化が進む中、いたずらな成長を求めすぎず適切な規模感で生き延びる戦略、顆粒事業で付加価値を求める戦略が各社の今後の成否につながりそうです。

素材産業全般についてのIR情報比較記事はこちら。ご興味のある方は合わせてどうぞ。

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本記事は塗料専業大手5社を紹介しました。しかし車載塗料をはじめ総合化学メーカーでも塗料は扱っており、専業メーカーとは違った特徴があります。ご興味のある方は合わせてどうぞ。

【総合化学7社徹底比較】復活の東ソーor堅実な信越化学

【2020年3月期版】日系化学メーカー大手の長期推移を様々な指標で比較してみました。日本株ではBtoBビジネスの地味な製造業である化学メーカ。景気動向を受けやすく浮き沈みが激しい業界の中でも、投資対象 ...

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素材さん

東大卒を活かせてない経歴の社畜。工場勤務のヒントを綴ります。転職、結婚、資産形成、資格取得、仕事感。共通点ある方のヒントになれば幸いです。 転職1回目で僻地突入、転職2回目で僻地脱出。/30代前半/東大卒(学部・院)→中小→大手JTC→超大手JTC/素材開発エンジニア/既婚/3人兄弟の真ん中

-企業分析

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