国内の食品大手企業について、IR情報を元に素材業界所属の筆者が徹底比較します。ここでの食品大手とは、食品業界における飲料を除く主要ジャンルで売上高トップの6社を言います。具体的には明治HD、日本ハム、味の素、山崎製パン、マルハニチロHD、日清製粉の6社としました。
原価率が高く廃棄ロスのリスクも大きい食品業界において、安定的な成長という点では明治HDが圧倒。アグレッシブな経営手腕を発揮している味の素も明るい未来が見える有力企業と言えそうです。歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。
1. 食品業界とは
食品と言えば日々の生活に密着したもの。こうした身近で欠かせない消費財のうち、「食」に関わる製品・サービスを提供する企業群を食品業界と言います。
食品業界には大きく分けて、下記4つの業種からなります。おおもとの食品・飲料の素材を生み出す第1次産業(農業・漁業・畜産業)、素材を買い付け加工業者に販売する商社、素材を加工する食品・飲料メーカー、商品としての食品・飲料を最終消費者に届ける卸売・小売の4つです。
① 原材料の入手時期に季節性があること
引用元:EY Japan
② 生産数量が、原材料の豊凶に依存すること
③ 保存性に乏しいこと(時間の経過により劣化すること、消費期限があること)
④ 加工しやすいこと(鉱物に比べ柔らかい)
⑤ 消費者の口に入るものであり、食の安全が求められること
本記事では食品業界の中でも、食品素材を商品に加工する食品メーカーを扱います。
IR分析シリーズとして、素材業界を中心に長期推移分析をしております。よろしければ合わせてどうぞ。
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2. 食品メーカーの分類
食品メーカーと一口に言っても、主力商品は多種多様です。総務省が公表する日本標準産業分類によると、食料品製造業としては①畜産食料品、②水産食料品、③野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品、④調味料製造業、⑤糖類製造業、⑥精穀・製粉業、⑦パン・菓子、⑧動植物油脂、⑨その他食料品(麺類、冷凍食品、総菜など)の9分類があります。
大手食品メーカーでは専業の会社、主力商品の軸を持ちつつも複数分野にまたがっている会社、ともあります。
3. 食品大手6社とは
本記事では飲料・酒類を主力製品とする企業を除き、売上高上位のうち異なる製品群を有する大手6社の企業群についてIR比較を行いました。具体的には、明治HD(売上高1兆131億円、2022年3月期)、日本ハム(同1兆1744億円)、味の素(同1兆1494億円)、山崎製パン(同1兆530億円)、マルハニチロ(同8667億円)、日清製粉G(同6797億円)を指します。
4. 食品メーカー大手6社の15年推移を徹底比較
食品大手6社(明治HD、日本ハム、味の素、山崎製パン、マルハニチロ、日清製粉G)における各種指標の15年間推移を徹底比較します。15年間推移を確認している理由は、企業体質の本質を見るためにアベノミクス以降の好景気では不十分と考えているからです。経営危機であるリーマンショック前後の挙動で、伝統ある企業体質が如実に表れると考えています。
なお筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっています。食品業界とは異なり波のある業界に属しております。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。
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4-1. 比較①:株価推移
リーマンショック後の底値付近である2009年11月を100としたときの指数で表して比較してみます。リーマンショック前後を含めた過去17年間の推移を見てみましょう。
ベンチマークとして日経225平均も入れてあります。2022年12月末現在(グラフ右端)、日経平均からアウトパフォームしているのは明治HD、味の素の2社のみ。味の素はリーマンショック前後は日経平均と同様の動きをしていましたが、リーマンショック後は日経平均を上回るトレンドが続いています(明治HDは2009年4月発足のため同比較は不可)。他の4社は2013年ごろからのアベノミクス影響で少々持ち直した時期もありましたが、直近5年間右肩下がりと惨憺たる状況です。
食品業界は生活に密着して我々の生活に欠かせない企業群ですが、企業としての利益創出の観点からは魅力的とは言い難い企業群が多いと言えそうです。
4-2. 比較②:自己資本比率の推移
重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。
マルハニチロは旧マルハ時代からの経営不振から、旧ニチロとの経営統合(2007年)、事業再編(2008年)を経て着々と財務状況の健全化を進めてきました。それでも大手6社の中の比較ではまだまだ低い状況が続いています。
逆に味の素は2013年ごろから自己資本比率が低下傾向にあり、業績不振というよりはレバレッジをかけて資本効率を重視した経営に舵を切ったように見えます。日清製粉でも2019年に大きく自己資本を減らしており、リスクをとったM&Aなどの施策をとっているように見えます(実際に459億円の事業買収を実施しています)。
その他3社はリーマンショック後から緩やかに改善傾向にあり、良くも悪くも無難な経営をしていると推測されます。
4-3. 比較③:連結従業員数の推移
連結従業員数の比較です。連結従業員数の単純な推移比較、2009年度の連結従業員数を100としたときの指数での推移比較の2つを見てみます。従業員変化をトレースすることで長期的な業界トレンドを把握でき、かつM&Aなどの大きな変化をとられることができます。
経営不振で苦しんできたマルハニチロHD以外は右肩上がりトレンドとなっています。2019年の日清製粉、2020-2021年のマルハニチロ、2022年の山崎製パンはそれぞれ上昇変化が急激であり、事業買収の影響が表れています。実際に日清製粉は豪Allied Pinnacle社、マルハニチロは伊藤忠系マリンアクセス社、山崎製パンは神戸屋の菓子パン事業をそれぞれ買収しています。一方で日本ハムは2021年に急激な減少を見せており、こちらも水産加工の子会社マリンフーズの事業売却影響が表れていると考えられます。
4-4. 比較④:連結売上高の推移
明治HDが発足した2009年の連結売上高を100とした時の長期推移を確認します。全体的には緩やかな右肩上がりトレンドがベースにありつつも、各社事業売買の影響で局所的に急激な変化が見受けられます。
味の素以外の各社は人口減少が続く日本が主戦場ですが、M&A影響以外では長期的に右肩上がりトレンド。直近20年間で日本の小規模事業所は半減したと言われます(出典:『淘汰される町工場』)が、日本の食品業界での中小企業淘汰進んで大手にシェアを奪われている兆候が表れているのかもしれません。
4-5. 比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移
従業員1人あたりの売上高推移の比較結果を確認します。組織としての売上が多くてもマンパワーをかけて薄利多売で全然儲からないということも珍しくないため、従業員一人当たり売上高の確認も重要です。ビジネスモデルにも大きく依存する指標なので一概には言えない部分もありますが、一つの指標としてみてみましょう。
比較的高位安定推移グループは日本ハム、日清製粉、マルハニチロ、明治HDの4社。一方で味の素と山崎製パンは低位安定グループとなっています。原価が高い場合は必然的に売上も高くはなりますが、それを含めた企業の特性が現れる指標といってもよいでしょう。次の1人当たり営業利益も併せて判断したいところです。
4-6. 比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移
従業員1人あたりの営業利益額推移の比較、効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。
前項の1人当たり売上と合わせると、明治HD、味の素、日本ハムの3社の経営が良好と言えそうです。明治HDは1人当たり売上が同等または低下傾向にもかかわらず1人当たり営業利益は大幅増となっています。味の素は1人あたり売上減でも1人あたり営業利益は横ばいか微増、日本ハムは売上横ばいで営業利益増加傾向となっていることがわかります。この2社は人的資本効率が良く、労働者や株主への分配が比較的手厚いと予想できます。一方で山崎製パンは売上変化も小さく、営業利益も低位安定となっています。薄利多売ビジネスからの脱却ができず現状維持でやっとという余裕のない経営というのが実態でしょうか。
簡単にまとめると、①売上大・利益大の明治HD、②売上小・利益大の味の素、日本ハム、③売上大・利益小のマルハニチロ、④売上小・利益小の山崎製パンの4分類になりそうです。③は水産品ビジネスの原価率の高さ、④は製パンビジネスの付加価値の低さが表れているという見方もできそうです。
4-7. 比較⑦:従業員1人当たり平均年収の推移
各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。有価証券報告書をもとに一応データとして載せましたが、実際には諸手当などで如何様にでも調整できる指標です。ただし同一会社内での時系列トレンド把握という点では有用な指標と見ることもできます。
年収推移グラフでのチェックポイントは3点、リーマンショック前後での変動幅、アベノミクスでの好況期での右肩上がりの傾き、長期トレンド推移です。
食品業界は生活必需品のため安定感が高いと言われる通り、他業界と比較してリーマンショック前後での大きな落ち込みは見られません。投資家や労働者目線での食品業界の大きなメリットですね。その中で、日清製粉やマルハニチロは長期で右肩下がり傾向となっており、ビジネス的に先行きが厳しいのではないかと推測できます。一方で味の素は長期トレンドで右肩上がりが続いており、人的資源に資金を投入できる余裕のある企業であると言えそうです。日本ハムもアベノミクス期間での右肩上がりが顕著で、この2012~2015年でベースアップに踏み切れるだけのビジネス的な変革があったのかもしれません。
明治HDは単独従業員が数十人規模でHD本社業務の人のみであるため、実態よりも高く振れている可能性が高いです。執行役員などの会社法非役員の役職者比率が高く、年齢構成変化の影響も受けやすい為です。有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。
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5. 食品メーカー大手6社の財務比較
各社の財務状況と事業内訳を確認してきます。財務状況はキャッシュフロー(営業CF、投資CF)と営業利益率の15年推移を示しました。食品業界は需要変化が緩慢であり単年での比較は難しく、IR情報は長期的に確認する必要があるため15年推移としました。
5-1. 日本ハム~ハム大手4社のトップに君臨する優良企業~
日本ハムと言えばハム大手4社のトップに君臨する最大手企業。2022年3月期(2021年度)の連結売上高は1兆1744億円、食品メーカー大手6社でも最大の売上であることはもちろん、ハム大手4社の中でも2位の伊藤ハム米久(同8544億円)、3位のプリマハム(同4196億円)、丸大食品(同2186億円)と売上規模で頭一つ抜けています。
1株あたり利益(EPS)は波がありつつも長期トレンドでは右肩上がり傾向、配当性向も30%程度と良くも悪くも日系特有の持続的な株主還元です。原価率の高いと言われる(※EY Japan)食品メーカーの中でも小さな改善を積み上げているようにも見えますが、営業利益率は5%に満たない水準でやや物足りない傾向。
それでもセグメント別にみると、2015年頃までに祖業の食肉セグメントでの営業利益率改善を進め、直近数年は加工食品事業の拡大と営業利益率改善を図っているように見えます。絶対的な数字はともかく、着実な姿勢が見えますね。
今後の展望はいまだ低い海外比率の拡大。実際に2011年にゴールデンピック社(ベトナム、6億円)、2014年にエゲータブ社(トルコ、86億円)、2017年にBPU社(ウルグアイ、Breeders&Packers Uruguay S.A.社、150億円)とM&Aも徐々に規模を大きくしています。国内人口減のペースと海外拡大ペース、いずれが早いかで今後の展望が分かれると言えそうです。
5-2.味の素~V字回復とともに右肩上がりの一流企業~
味の素と言えば祖業の調味料に加えてレトルト食品としてもなじみの深い企業。一方でIR指標を見てみると、利益率は苦しい時期もありつつV字回復という流れを過去15年間で2回見せています。営業CF・営業利益率推移をみてもキャッシュ創出能力に加えて、営業利益率向上体質を築き上げている様子が確認できます。営業利益率も10%台に突入と食品業界の中で圧倒的な利益率も達成しました。
2012年のカルピス譲渡(2006年に完全子会社化)で世間をにぎわせたと思えば、2014年にはウインザー・クオリティ社(米国冷凍食品、840億円)、2016年には核酸医薬のジーンデザイン社買収、エーザイとの事業統合(EAファーマ)とM&Aも非常に活発です。
セグメント別売上や営業利益率推移と合わせると経営方針も容易に読み取ることができます。、2007年~2014年では利益率改善が見込めない医薬事業縮小と譲渡、2014年~2020年ではヘルスケア事業の利益率と安定化、2018年~2021年ではヘルスケアの躍進と冷凍食品事業の課題が見えるセグメント構成変更。透明性の高い経営体質で、次の一手は冷凍食品事業のテコ入れでしょうか。
大手食品メーカーの中でも海外売上比率が高く、今後も継続的な成長が見込める数少ない優良企業と言えそうです。利益率の低い冷凍食品事業の立て直しができれば、早期の飛躍が見込めそうです。
5-3. 明治HD~製菓と製薬で高利益体質を目指す~
明治乳業と明治製菓の経営統合で2008年に生まれた明治HD。旧三井グループの名前こそありませんが、財閥ならではの圧倒的存在感を放つ経営実績です。1株当たり利益(EPS)、営業CF、営業利益率のいずれも右肩上がりで、投資も身の丈に合った水準で相応のリスクもとっていることが読み取れます。
セグメント別の推移を確認すると、2010年代前半は食品セグメントの売上キープで営業利益を改善してきしたが、2010年代後半には伸び悩み2021年度は下落トレンドとなっています。一方で医薬事業については着実に利益を伸ばし、食品事業の利益低下を補完できそうな関係にあるようにも見えます。
実際に明治HDはM&Aと合わせて医薬事業を強化してきており、2014年にメドライク(インド、買収額295億円)、2018年には化学及血清療法研究所(通称化血研、買収額500億円)の買収を実施。一方で2022年には農薬事業を三井化学アグロに譲渡(譲渡額467億円)と、医薬事業以外の周辺事業の売却と合わせて選択と集中に舵を切っています。売上至上主義から脱却して高利益率体質を追求する経営方針が各種指標から読み取れます。
今後も優良企業であり続けるためには、食品事業の競争力強化が必要でしょう。一方で食品事業の中でも赤字体質から抜け出せない牛乳分野は、高利益を確保できているヨーグルト分野とのシナジーも大きく、選択と集中も一筋縄ではいかないでしょう。次の一手が気になるところです。
5-4. 山崎製パン~パン業界の雄~
製パン大手3社の中でも最大手である山崎製パン。2021年度決算の年間売上高は1兆529億円。製パン大手3社であるフジパン(売上高2689億円、2022年6月期)、敷島製パン(売上高1484億円、2022年8月期)、と比較してもダントツのパン業界の雄。良くも悪くも安定はしていますが、直近2年は「コロナ渦」でやや苦戦気味です。
2006年にはスナック菓子大手の東ハトを買収(買収額172億円)、2008年には不二家子会社化(同79億円)、2013年にはデイリーヤマザキ吸収合併、2016年には米ベイクワイズ・ブランズ社買収、2022年にはパン業界大手4位の神戸屋の包装パン・デリカ食品事業買収など、M&Aにも抜かりありません。
2016年には1970年から続いていた「ヤマザキナビスコ」のライセンス切れ問題もありましたが、そのピンチをしっかり乗り越えてきている優良経営と言えそうです。国内の人口減の影響を回避すべく、若年層に人気の洋菓子や菓子パンでしっかりとベース需要を確保しに行っているようには見えます。ビジネスモデル上ここからの拡大は難しいでしょうから、他社の持っているパイを総取りして生き残っていくことになると予想します。
5-5. マルハニチロ~水産加工に強み~
水産加工品や冷凍食品などに強みを持つマルハニチロ。2007年にマルハグループとニチログループの経営統合で誕生しました。国内が主戦場である多くの食品メーカーにとって、スケールメリットによる合理化をしないと生き残れないという当時の関係者の危機感があっての経営統合だったと推測します。
経営統合以降、原価率の高い水産加工ビジネスにおいて、利益率もわずかながら上昇傾向が続いています。経営統合前と比較してCFも安定化して、1株利益(EPS)も大きく向上しています。2008年にはアグロベスト(マレーシア、エビ養殖、2016年に事業譲渡済)、2021年にはサイゴンフード(ベトナム、水産食品加工メーカー)、マリンアクセス(伊藤忠系日本アクセスから取得)、2022年にはノースコーストシーフード(オランダ)など事業買収にも積極的です。
一方で安定の食品業界の中では「コロナ渦」の影響を大きく受けてしまいました。水産加工セグメントにおける売上比率において、BtoC向けよりも外食産業向けが比較的多いのかもしれません。その意味では、スケールメリットがものを言いやすい水産資源・加工ビジネスにおいて、抑えるべきマーケットを押さえているという見方もできそうです。他の食品大手メーカーと同様、成長度は海外マーケットへの進出とその成功にかかっていると言えそうです。
5-6. 日清製粉~海外で確実に稼ぎたい~
日清製粉と言えば製粉大手4社のトップに君臨する最大手企業。2022年3月期(2021年度)の連結売上高は6797億円、食品メーカー大手6社の中では目立たないですが、製粉大手4社でも2位のニップン(同3213億円)、3位の昭和産業(同2876億円)、日東富士製粉(同593億円)と売上規模で頭一つ抜けています。
CF推移から見てもわかる通り、数年スパンで大型投資を実行。2012年にはチャンピオン製粉(ニュージーランド製粉会社、買収額34億円)Miller Milling社(米製粉会社、買収額98億円)、2015年にはジョイアスフーズ(日本調理麺、買収額32億円)、2018年にはトオカツフーズ(日本中食、買収額151億円)、パシフィック製粉(タイ製粉工場取得、18億円)等、国内外問わずM&Aにも積極的です。一方で2019年の豪Allied Pinnacle社子会社化(買収額468億円)が記憶に新しいところですが、2022年度に558億円の減損計上と直近はコロナ渦の影響も受けて苦戦している様子も伺えます。
それでも1株当たり利益はコロナ前までは順風満帆、1株配当はリーマンショック以降は右肩上がり傾向、営業CFは着実に右肩上がりと、株主目線では魅力的な会社であることは変わらない様子です。一方で配当性向が高くなってきていて、事業成長がなければ増配などの株主還元も限界が近い状況でもあります。
2001年には持株会社制に移行し、日清製粉グループ本社の基に「製粉」「食品」「配合飼料」「ペットフード」「医薬」の各事業会社を設置し、海外展開と中食惣菜の2つでけん引を謳う日清製粉。国内が主軸の食品事業がシュリンクしている中、どこまで健闘できるか、興味深いところです。
6.結論:食品大手6社なら明治HDか味の素
人口減少期の我が国において、国内市場でのパイの奪い合いというチキンレースが繰り広げられる食品大手。その中でも高利益体質に舵を切り安定感のある明治HD、海外市場を含むM&Aなどの強気な経営方針で更なる拡大を目指す味の素、の2社が最も魅力的と言えそうです。
原価率が高いビジネスならではの難しさに加えて人口減少と、前途多難の食品業界。更なる業界再編でスケールメリットを追求つつ、海外事業拡大で生き残りをかけていくのが王道路線になりそうです。一方で我々の日常生活に欠かせない商品を提供する社会的責任を全うするのも同業界大手の使命。この一見すると相反するような経営を両立できる企業であれば、未来は明るいのかもしれません。
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