大手メーカーで多くの人が経験する僻地勤務。僻地勤務といえば一般的には良いイメージを持たない人も多いことでしょう。
しかし僻地勤務も悪いことばかりではありません。地方都市・僻地・都会すべてで勤務経験のある筆者だからこそ感じる、僻地勤務のメリット・デメリットについて解説します。
1.僻地勤務とは
僻地勤務とは、都会の喧騒から離れ、地方都市からも遠い片田舎で仕事することをいう俗語です。
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生まれ育った地元以外の地方で、かつ交通の便が著しく悪い勤務地を想像していただければよいでしょう。twitterでも僻地勤務と言って揶揄されたりしますね。
製造業では僻地に工場・研究所を構えることも多いもの。不人気な立地を背景に安価で広大な土地を確保しやすく、また地場の優秀な労働力を比較的安価で確保できるからです。これが僻地勤務のある大手メーカーの競争力の源泉。一方で他に目立った産業のない地域の中で、地場の雇用を支えている側面もあります。
一方で比較的優秀とされる総合職採用の人にとっては、忌避されることも多いもの。技術系は地方勤務も多いですが、特に都会勤務の選択肢も多い事務系にとってはつらいと感じる人も一定数います。そこで地方都市勤務→僻地勤務→郊外からの都会勤務のすべてを経験した筆者の実体験をもとに、僻地勤務のデメリット・メリットを考えてみました。
2.僻地勤務の4つのデメリット
2-1. デメリット①:遊び場所が少ない
学生時代に一生懸命勉学や研究に勤しみ、晴れてお金をもらえる立場になった社会人にとって最大のデメリットでしょう。いわゆる華やかな生活とは無縁で嫌気がさしてしまうかもしれません。
毎週末遊びに出かけるというアクティブな人にとってはつらい環境であることは間違いありません。友人と会うのも一苦労です。一方でインドアな人、友人が少ない人、自然が相手のアウトドアな趣味を持つ人、にとっては許容できるデメリットともなりえます。
人生のフェイズによっても許容できるかどうかが変わりそうですね。筆者は結婚直後に僻地勤務に突入しましたが、当初はちょっと退屈でした。転職して大手勤務になったとはいえメーカーはそこまでお給料良くないので、都会にいたところで遊びに行ったりするお金には困りそうでしたが。
2-2. デメリット②:車が必須で生活が不便
所有からシェアが叫ばれる車。僻地では公共交通機関が著しく不便なので、一定のQOL維持のためには車の所有が必須です。筆者の経験している僻地は最寄りのイオンまで高速道路使って1時間かかる場所でした。車の運転が苦手な人、そもそも免許持っていない人、お金のない新社会人にとってはハードルが高いのも事実ですね。
免許を持っていない人には地獄ですが、僻地生活は車の運転が苦手な人にとって優しい環境です。土地が余っているので道幅は広いですし、交通量も少ないのでのんびり運転できます。車がないと生活しにくい地方都市よりも有利かもしれません。お金がない新社会人は、寮生活+引きこもりでお金を貯めてから中古車を買う人が多いです。実際に生活道具としての車のために貯金しないといけないのが辛いと感じる人は多いようです。
また僻地とは縁のない人にとっては、生活上の不便が苦痛だと感じる人もいます。実際に国家公務員・地方公務員は僻地と同義とされる「特地」勤務の場合手当が支給され、その支給根拠に次のような記載があります。慣れ親しんでしまえば「住めば都」ですが、それまでの間生活の苦痛を感じる人がいるのは確かです。
(前略)生活の不便な地に所在する公署への職員の異動は、必ずしも円滑に行われているとはいえない。これには特定の地における勤務に伴う生活を不便と感じ、これを苦痛とする程度において、その地に従前から居住している者とそうでない者との間に相当の差がある(後略)
出典:福島県諸手当質疑応答集(令和3年10月)
2-3. デメリット③:婚期が遅れる
ライフプラン上で大きなデメリットになるのが、婚期が遅れるという点です。婚期が遅れるくらいで済めばよいですが、婚期を逃して生涯独身の人も多いもの。ただでさえ僻地は若い人が少ないです。自分から積極的に人に会おうとしなければ、適齢期の異性との接点は皆無に。
実際に大手メーカー僻地拠点で勤務していましたが、転勤・転職を経験していない部長クラスの人の独身率は高かったです。既婚の人は①職場結婚、②他拠点勤務時代に出会って単身赴任or社宅住まい、③総合職だけど地元が近い、という人がほとんど。地元でない僻地で職場以外の出会いを探すハードルの高さをひしひしと感じました。
マッチングアプリでもなかなかマッチングしないそうで、運よくマッチングした人が職場の人だったなんて悲劇もあった様子(実話です)。僻地勤務を経験するまで想像もしていなかったので、僻地突入前に妻と出会っていた筆者は幸運だったのかもしれません。
2-4. デメリット④:子女教育の選択肢が少ない
ハードルの高い結婚をクリアしても難題が降りかかります。子どもをいろんな場所に連れて行ったり習い事をさせたりしたいと思っても、僻地では教育の選択肢がほぼありません。
比較的近くにあるのはお年寄りがやっている個人ピアノ教室、寂れた英会話教室、サテライトの塾くらいです。もちろんそれぞれに他の選択肢はありません。ちょっとした習い事のために1時間もかけて車で送迎は現実的ではありません。
新卒時代や新婚当初には全く想定できなかったデメリットでした。筆者の場合子どもが生まれ教育を真剣に考え始めてこのデメリットに直面。第一子小学校入学前までに都会勤務へ戻ることを決意しました。想像力が豊かな人なら十分想定できることなんでしょうが、若さゆえちょっと楽観的過ぎました。ただ、このデメリットさえなければ僻地永住でも良かったとも思っています。
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2-5.デメリット⑤:近所付き合いが多い
これもよく言われるデメリットですが、データを見たことのある人は少ないでしょう。少し古いデータですが、厚生労働白書の中で客観的根拠を見つけました。
近所付き合いを好むかどうかは人によって好みがわかれるところですが、僻地が含まれる町村の方が都会よりも近所付き合いが多い傾向なのは事実です。実際に筆者も僻地勤務時代には、見知らぬ近所のお年寄りと家族ぐるみで懇意にしていただいてました。もともと見知らぬ人であった近所付き合いが苦手な人にとっては辛いかもしれません。案外ほかの地域から転入してくる人を歓迎する雰囲気があったのは意外でした。
3. 僻地勤務の4つのメリット
ここまでデメリットを述べてきましたが、僻地勤務も悪いことばかりではありません。実際に僻地でマイホームを購入して幸せに暮らしている総合職の人もたくさんいます。
結果的に筆者は転職で脱僻地・都市部への転職という道を選びましたが、僻地勤務でよかったと筆者が感じた3点について紹介します。
3-1. メリット①:生活コストが安い
生活コストが安くお金がたまる。これが僻地勤務の最大のメリットと考えています。
まず一番大きな出費である住居コストが安いです。大手メーカーだと寮・社宅が安価で提供されていることも多いですし、そうでなくても賃貸相場もかなりお安くなっています。土地が余っているので車保有に必須の駐車場代も安かったり、安い家賃に駐車場が含まれていることも。総務省、家計調査でも、僻地に相当する「小都市B・町村」では、それ以外の区分と比較して家賃+自動車保有・維持コスト+交通費が安くなっています。
寮や社宅は老朽化が進んでいることも多くアタリハズレはあります。また賃貸も選択肢が少ないですが、多少古くても許容できる人にとっては魅力的な選択肢でしょう。戸建てを買うにしても土地代は建物代と比べるとタダ同然で広大な土地が手に入ります。実際に総務省・家計調査でも僻地に相当する「小都市B・町村」では、その他区分と比較して住居面積が最も大きくなっていますね。
食料品関係はトータルで圧倒的メリットがあるとまでは言えませんが、地場のものならお安く買えます。山沿いであれば野菜・山菜、海沿いであれば魚介類は破格の値段で新鮮なものがいつでも入手できます。食の選択肢は多くありませんが、自分の好みに合致すれば天国です。
衣食住以外にお金を使う場所が少ないので、必然的に出費を伴う行為自体のハードルが高いです。このため必然的に生活コストが下がり、お金が溜まりやすいということは言えそうです。大手メーカー勤務なら相対的にかなり余裕のある生活ができるでしょう。
3-2. メリット②:通勤が楽
僻地の場合、通勤が車か徒歩。勤務地の近くに住む人が多く、通勤が短距離・短時間の人が多いです。また少し離れたところから通っている人であっても公共交通機関の混雑度は都会・地方都市よりも少ないです。
筆者の場合、僻地勤務時代は徒歩通勤だったので通勤での消耗はほとんどなかったです。強いて言えば夜道が暗いのが気になるくらいですが、人がそもそもいないのである意味安全です。都会在住の現在は電車+バス通勤、大混雑の通勤で消耗しているので、そのありがたみが良くわかります。
3-3. メリット③:自然豊かで長閑
僻地は大自然に囲まれているので自然が豊かです。山間部なら登山やウィンタースポーツ、海沿いなら釣りやサーフィンなどを楽しむ人も。都会にないのんびりとした雰囲気も魅力的です。自然相手の趣味を持っている人は、自ら志願して僻地勤務を選ぶことも多いようです。まさにwin-winですね。
ウィンタースポーツを趣味にする筆者も、ゲレンデまでのアクセスの良さをしっかり享受しました。高速道路の渋滞とも無縁なので、週末日帰りでサクッと楽しめてました。
3-4. メリット④:キャリア採用のハードル低め
喧騒の中で遊びたい壮年期の人にとって、僻地は不人気そのもの。キャリア入社の場合初期配属も決まっています。僻地勤務が確定した採用となるためか、人材確保に困っていたりします。このため新卒採用や都会・地方都市のキャリア採用と比較して採用ハードルはやや低いです。
「配属ガチャ」やライフプランを楽観的に考えた新卒入社の人はともかく、キャリア入社でわざわざ僻地に来てくれる人は多くありません。もちろん相対的難易度が低いというだけでそれほど易しいわけではありませんが、新卒カードで不本意な結果となった人のリベンジ先としては有望です。
筆者はポンコツでしたが、僻地勤務と引換えに大手メーカーへ内定・転職しました。もちろん入社後には優秀なプロパーの先輩方にガッツリしごかれますが、土俵に立つハードルが若干低いのは事実です。
4. 体験談:大手メーカー僻地勤務で出稼ぎ
新卒で地方都市の中小企業へ入社した筆者。大手勤務でないことにコンプレックスを募らせ、また俗にいう年収コンプレックスで待遇にも困っていました。結局院卒3年目で結婚と同時に僻地勤務で出稼ぎしました。
当時は僻地勤務と引き換えに夢に見た大手勤務を成し遂げ、定年までしがみつく気満々でした。実際に僻地勤務の3つのメリットは最大限享受して、それなりに満喫した6年間を過ごしましたね。
ただデメリット④でも挙げたように、子女教育の選択肢の少なさは想定していませんでした。そこで第一子が小学校入学前までには都会か地方都市へ転職したいと朧気に思っていたところ、別の動機も重なり魅力的なオファーが頂けたので脱僻地転職に踏み切りました。
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初めから狙っていたわけではありませんが、結果的に筆者の場合は大手メーカー僻地勤務のおいしい部分だけを享受したことになります。今になって考えてみても、一時的な僻地勤務の同意が得られる配偶者を見つけて結婚前後に大手メーカーへ僻地転職、数年~10年後に都会・地方都市へ再転職というキャリア。筆者と似た考えの人には最適解の一つになりうるのではないかと思っています。
もちろん転職できるだけの実力・実績を積むため、日々一生懸命仕事に取り組む必要があるのは言うまでもありません。十分な貢献をできれば、僻地での勤務先にとっても利益になるキャリアと言えるでしょう。
5. まとめ:僻地勤務も自分次第で天国
僻地勤務のメリットとデメリットをまとめます。
デメリット | メリット |
遊び場所が少ない | 生活コストが安い |
車が必須 | 通勤が楽 |
婚期が遅れる | 自然豊かで長閑 |
子女教育の選択肢が少ない | キャリア採用の難易度低め |
期間限定でのデメリットと将来都会に戻れないかもしれないリスクを許容できる人は、大手メーカーなどの僻地勤務で出稼ぎという選択肢も有力でしょう。もちろんそのまま僻地に魅了されて永住する選択をとるチャンスも得られるかもしれません。僻地勤務=ハズレという風潮がなくなることを願ってやみません。
それでもどうしても都会勤務にこだわりたい方は、まず自分が人生で何を求めるかよく考えてみるとよいでしょう。その上で勤務地と自分のキャリアの重なる領域が異業種であれば、その業界の方からキャリアサポートを受けるのが近道です。思ってもみなかったハイクラス転職で、都会勤務を手に入れることができるかもしれません。