増減の要因をわかりやすく説明するときに威力を発揮するウォーターフォールチャート。縦向き、横向き、増減の並び順などバリエーションはありますが、コンパクトに情報を反映させる有用なツールです。
投資されている方なら決算資料で一度は見たことがあるでしょう。せっかく見たことのある有用ツールをおさらいし、簡単なケーススタディで実際に描いてみましょう。
本記事では一般的な縦向きチャートだけでなく、横向きチャートの書き方も紹介してみました。
1. ウォーターフォール図とは
1-1. 増減をわかりやすく表現できるグラフ
名前を聞いてピンと来なかった人も、このグラフを見れば見覚えがあることでしょう。すっかり企業IR資料の定番メニューになりましたね。2016~2017年頃から2-3年でずいぶん採用が増えました。2015年以前はあまり見かけませんでしたから。
滝グラフ、ウォーターフォールチャートとも呼ばれます。文字通り滝のように増減の推移がわかるグラフです。いいネーミングですね。
ウォーターフォールチャートのポイントは下記3点です。
- 合計を表す棒グラフ
- 増加・減少それぞれの要素を表す棒グラフ
- 並び順で要素のメリハリをつける。
ちなみにこのグラフ、米マッキンゼーが最初に使ったグラフと言われています。コンサル会社はわかりやすさの表現方法も最先端を走っているのですね。頭のいい人たちには頭が上がりません。
1-2. ウォーターフォールチャートを使わないと突き返したくなる
ウォーターフォールチャートを使わずに、この決算グラフを表すとこのようになります。
分かると言えば分ります。一応文字ですべて書いてあります。このグラフを見せながら「文字で書いてあるので、読んでおいてください」と言われたらどう感じるでしょうか。
僕だったらちょっとイラッとしますね。直感的に分かりにくいです。サラリーマンだとして、このグラフを部下に見せられた場面を想像してみましょう。分かりにくくて、八つ当たりのように根掘り葉掘り聞きたくなりませんか(笑)。僕は根掘り葉掘り聞かれて辟易としていました。
1-3. ウォーターフォールチャートを使うとわかりやすい
ウォーターフォールチャートを使って、三井物産2018年度決算のグラフを表してみました。決算資料を基にした自作グラフです。
断然分かりやすいですね。これを見せられると、質問する気が失せるくらいのパワーがあります。
僕の業務の中で、ある時生産コスト推移の説明資料にひと手間かけてウォーターフォール図を使ってみました。今までネチネチ聞いてきた上司が「ああそうか、わかった」の一言で説明が終わりました。誰が見ても分かりやすいのです。
もちろん滝グラフだけでなく、増益要因・減益要因をそれぞれ暖色・寒色で色分けした効果もあります。
1-4. ウォーターフォール図が効果的な場面
このグラフの出番はIR資料だけではありません。得意分野は予算と実績の乖離説明、実績と今後の見通しについての説明資料ですね。
- コストの増減
- 歩留の増減
- 不良率の増減
- 工数管理の増減
- 販売数量の増減
- WEBアクセス数の増減
直属上司だけでなく、もっと偉い人向けの説明資料でも破壊力抜群です。説明資料に書いてあることは同じなのに、「お前の説明資料は数字の根拠がはっきり示されていて分かりやすい」とよく言わるようになりましたね。決算資料だけに限定するのは勿体ないです。
破壊力抜群ですからね。結果的に上司への説明が短時間で済みます。
投資家が日常的に見ているグラフで説明するだけなのですが、「こいつの説明はわかりやすい」と思ってもらえます。「賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶ」の典型例です。ちょっと飛躍しすぎてピンとこないかもしれませんが。
2020年頃から社内でも普通に見かけるようになってきたので、むしろ使いこなして当たり前になりつつあるのかもしれません。
2. ウォーターフォール図を使えない理由
これほど便利なのに、2016~2018年頃までは僕以外に社内で使っている人を見たことがなかったです。投資家目線で見ると本当に不思議ですが、使われないことにも理由はあります。
2-1. 理由①:ウォーターフォールチャートを知らない
おそらく使われない最大の理由はこれ。でもこの図を見たことがない人は社会人として怠慢としか言いようがありません。経理畑で知らない人は社会人失格レベルです。己の怠慢を猛省しましょう。逆に間接部門以外で使いこなしている人は、広くアンテナを張って研鑽を積んでいることでしょう。
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2-2. 理由②:ウォーターフォールチャートの作り方がわからない
ウォーターフォール図を知っていても、意外と使いこなしている人はほぼ皆無です。僕の勤務先では2019年頃まで、前職、現職とも営業部門、技術部門関係者でウォーターフォール図を見たことすらありませんでした。2020年に入って予算資料などでは見かけるようになりましたが、日常報告で使っているのはまだそれほど見かけません。
色んな所で登場するグラフなので、知っている人もいそうなものです。知っていても使えない理由があると考えるのが自然。推測ですが、そもそも作り方を知らない人が多いのではないでしょうか。次項で誰でも書けるように詳細な書き方を説明します。
2-3. 理由③:活用方法を知らない
意外と多い理由の一つがこれかもしれません。書き方を知っていても使う場面を適切に知らないと活用できませんよね。能力差が一番出る部分です。
IR資料ではみたことがあるかもしれません。延長線上で、同じ内容を社内部門の予決算説明で偉い人に説明してますよね。そうすると同じ説明資料が使えそうだと思いつきたいところですが、意外と思いつかないものです。
ほかにもコスト、歩留、不良率、工数管理、販売数量、WEBアクセス数などの増減や見通しについても使えます。
○○という指標、今月はどうして増えてるんだ?って聞かれることは業務でも日常茶飯事ですよね?ごちゃごちゃ聞かれて調べさせられて答えるよりも早いです。もちろん多少手間はかかりますが、後で五月雨式に聞かれて調べて報告することを考えるとトータルでは圧倒的に時短となります。
便利なツールは見たことがあるだけ、知っているだけでは何の役にも立ちません。その代表例の一つが4象限マトリクスです。活躍の機会はたくさんあるはずなので、積極的に活用したいですね。
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3. エクセルでウォーターフォール図を描いてみよう
3-1. Step①:エクセルに数値を埋めよう
三井物産の純利益推移をグラフに表すケーススタディです。最新版エクセルではもう少し簡単に描けるかもしれませんが、誰でも使えるexcel2010で描いてみましょう。
まず横軸ラベルをB列、土台の棒の部分をC列に記入します。2018年度実績、2019年度実績、2020年度計画はそれぞれ4185億円、4142億円、4500億円です。
次にE列、F列にそれぞれ要因別の増減を入力します。2018→2019で、基礎収益力は427億円の改善なので、E列("増")の部分に"427"と入力します。改善要因を同様に埋めていきます。
一方、2018→2019で資源コスト・数量の要因は180億円の悪化なので、F列("減")に"180"と入力します。悪化要因についても同様に埋めていきます。
実際の説明資料では、この増減要因を計算するのが大変だと思います。でも慣れれば資料作成はすぐできるようになるので、忍耐強く続けましょう。
3-2. Step②:エクセルに計算式を埋めよう
Step①で開けてあったD列に計算式を埋めます。G列に計算式を描いたので、この通りに入力します。ちょっと面倒ですが、増減部分をグラフ化する際に高さ合わせのために必要です。グラフを書くときに分かりますので、もう少し我慢してお付き合いください。
3-3. Step③グラフ化しよう~縦向き編~
Step③-1:B1-F15列をドラッグして、"積み上げ棒グラフ"を選択しグラフを描きます。お好みに合わせて棒グラフの色や幅、縦軸は調整してください。細かいですが、増える方を暖色系、減る方を寒色系で表現すると直感的に分かりやすくなります。またさりげなく書いていますが、意外と色や幅、目盛幅の設定は見た目の印象を大きく左右するので丁寧にやりましょう。
Step③-2:黄色部分をクリックして、"塗りつぶしなし"を選択します。
すると…あら不思議、滝グラフが現れます。これでウォーターフォール図の原形は完成です。
値ラベル・説明テキストを入力します。ここでも増える方を暖色系、減る方を寒色系で表現すると一目で分かりますね。色の濃淡で分けてもよいでしょう。最後にグラフタイトル・軸ラベルを整えて完成です。
3-4. 横向きのウォーターフォールの書き方
ウォーターフォールチャートは縦棒グラフで示すのが分かりやすいですが、レイアウトやその他の意図で横向きに作りたいときもありますよね。縦向きに作ったウォーターフォールチャートを横向きに直してみましょう。
3-4-1. 【横向き編①】グラフを横棒に変える
3-3項で作成した棒グラフを選択し、右クリックメニューの「グラフの種類の変更」を選んでグラフを横棒に変えてみましょう。すると、上下が逆転してしまいました。時系列が逆になってしまい、非常に分かりにくいですね。
3-4-2.【横向き編②】軸オプションを変更する
これを元に戻します。グラフの縦軸を選択し、軸のオプションで次の2点を選択します。
- ①「軸を反転する」をチェック
- ②横軸との交点で「最大項目」を選択
3-4-3.【横向き編③】増減要因を記載して完成
やっと横向きの正しいウォーターフォールチャートができました。これに増減要因を記入していくと、さらにわかりやすくなりますね。下図は完成形のイメージです。
4. 【まとめ】ウォーターフォールチャートを上手に使おう
4-1. 基本は縦向きが見やすいが、レイアウトに合わせて横向きも使える
投資家なら見たことない人はいないウォーターフォールチャート。初めて作るときはちょっとメンドクサイかもしれませんが、ひと手間かけるだけの労力に見合った効果が得られます。
今回は縦横それぞれのウォーターフォールチャートを紹介しました。基本は縦向きが良いですが、レイアウトなどの特別な事情で横向きも組み合わせるといいですね。
4-2. 報告・説明の時間短縮できるのがウォーターフォール図
確かに慣れないうちはグラフ作成に手がかかります。しかし一目で結果がわかるので、報告・説明の時間を短縮することができ結果として生産性向上に繋がります。労力は個人ではなく組織全体のトータルの業務量で考えましょう。資料作成はクソだと思いがちですが、くだらない質疑を伴う説明の時間はもっと不毛です。
「百聞は一見に如かず」を表現して、くだらない仕事を減らしましょう。組織全体のメリットを提供し続けていれば、自ずと自分に都合のよい環境が創り出せます。会議参加メンバーの時間を節約することもできて、注目の的になれるかもしれませんよ。社畜上司に注目されても嬉しくないかもしれませんけどね。
中小企業で使いこなせばヒーロー扱いされること間違いなし。少なくとも前職の中小企業ではこういうツールを導入した説明で上司・先輩から感動されました。
ちなみにこのウォーターフォールチャートはpythonでも書けます。pythonブロガーのwatさんが詳細に解説されているので、興味ある方は合わせてどうぞ。
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