筆者は素材系エンジニアとしてJTC勤務ですが、「素材」という観点からは一貫したキャリアを歩んできています。技術系素材メーカー社員として、化学系専攻を選んだ理由、素材メーカーの志望動機について綴ってみます。
1. 素材メーカーとは
素材メーカーとは、商品のもとになる「素となる材料」を製造・供給している会社を指します。湾岸の工業地帯に君臨する大きなプラントなどがイメージしやすいかもしれません。
しかし「素材」は身近な生活を支える縁の下の力持ちのような存在。例を挙げれば枚挙に暇がありません。
- 普段身に着けている衣類を作る元となる「繊維」
- 学校やオフィスで活躍する「紙」
- 車のボディを構成する「鉄」
- 水回りで日々活躍する「衛生陶器」
- 家やビルなどの建物を構成する「ガラス」
- 発電したり、車を走らせたりする「石油」
- 建物や車を支える「ゴム」
- コンピューターの半導体等を作るのに必要な「レアメタル」
素材の中でも大手総合化学メーカーは大規模で、社会への影響力も大きな産業です。各社特徴があり知名度と業績などは一概に相関はありません。
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2. 化学系専攻の志望理由
2-1. 【理由①】実験で薬品の色に魅了された
中学理科の実験で使用した硫酸銅水溶液のきれいな淡青色、これが僕の素材キャリアの原点です。きれいで魅了されつつも、どこか人工的な雰囲気、ちょっと危険な「香り」(※物質としては無臭です)のするこの色に出会っていなければ、全く違ったキャリアになっていた可能性が高いです。
他にも魅力的でもっときれいな色はたくさん見てきましたが、やっぱり根源を辿ると硫酸銅水溶液にたどり着きます。物質や水溶液の色に魅了されたことがきっかけで、素材系・化学系分野専攻を選んだパターンは業界人であれば少なくないという声も聞きます。
2-2. 【理由②】計算だけで語れない
もう一つ大きな志望理由は、計算だけで語れないことです。コンピューターが著しく高性能化したので現代では、MI(マテリアル・インフォマティクス)などある程度計算でも語れる部分が増えてきています。しかしながら専攻への志望を決めた15年ほど前はもちろん、現在でも実験的に物質固有の性質や製法を推測することの方が圧倒的に多いです。
化学以外の専攻は詳しくないのでイメージになりますが、機械・電気系は緻密な計算で以て設計したりするイメージが強いです。応用物理、航空宇宙系、プラント系も同様です。それぞれ複雑系であり夢も詰まっていたりするので、こうした分野もハマれば面白かったのかもしれません。
そうは言っても物質時代は身近にあります。この手の届く範囲にある計算だけで語れない不思議な未知は、化学・素材への好奇心を描き立てるのには十分なものでした。
2-3. 【理由③】物理が苦手だった
ネガティブですがこれも無視できない大きな理由です。今も苦手ながら仕事で使っていますが、高校時代まで物理は大の苦手でした。物理現象を理解できれば興味の湧いたであろう分野もあったのでしょうが、物理現象を考えるだけで苦痛という理由だけで実質的に興味をもつキッカケがなかったのも大きいです。
3. 素材メーカーの志望動機
学生時代は化学系専攻だったので当然のように素材メーカーに進んだ、というわけではありません。文系就職や異分野への就職も考えた中で、実際に素材メーカーで勤務してみて、当時具現化できていなかった当時の志望動機を再構築してみました。
3-1. 【志望動機①】いつでも必要とされる縁の下の力持ち
素材メーカーは製造業の中でも上流に位置する地味な存在です。ロケット、衛生、自動車、産業機械、など華々しい業界と比較するまでもありません。
華々しい業界にも栄枯盛衰があります。しかしどんな時代も、製品を作るもととなる素材・材料は必要とされる存在。表には出てきませんが、素材メーカーはいつの時代も変わらず縁の下の力持ちとして社会に貢献しています。
3-2. 【志望動機②】陰キャラに向いている
あくまで個人的意見ですが、素材メーカーは陰キャラが向いています(笑)。少なくとも陰キャの僕はそのように感じています。実際に僕がこれまで関わってきた素材メーカーで活躍している技術系は派手なことを好まず、真に熱い素材・材料への好奇心を秘めて地道に取り組む人が多い印象ですね。
実際に計算だけで語れない部分も多いので、地道にデータを重ねて理論と現実を摺合せながら素材製品を作り込んでいきます。営業サイドもこうした技術系人材にもまれながら(※別の視点では技術陣も営業陣に揉まれています)、淡々と業界分析を重ねながら理路整然と取り組んでいる印象です。
なお「陰キャラ」とは「コミュ障」とは異なります。必ずしも明るい性格である必要はありませんが、相応の洞察力があってかつ自分の考えを分かりやすく伝える力に優れた人でないと務まりません。素材系は数式だけで語れないものが多いことの裏返しでもありますね。
3-3. 【志望動機③】会社のカネで好奇心を満たせる
やっぱり素材の色への探求心が忘れられなかった、というのは大きいです。実製品の開発・生産で社会貢献しながら色への好奇心・探究心を満たせる分野は、産業界では素材しかありません。
実際問題、素材関連の実験・評価はかなりカネがかかります。また量産試作段階になると大型のプラントを使うことになるので、費用面や安全面などで相応のリスクもあります。こうしたリスクは会社が追ってくれる環境で実験したり、量産条件を決めたりすることで好奇心を満たせるのは素材メーカーならではの特徴と言っていいでしょう。
実務では原因不明の着色、色むらなどに苦しめられることも多いですが、追求する原理現象が色に結びついているが故に未だに好奇心を以て取り組めています。
3-4. 【志望動機④】そこそこ高待遇
気になるお給料ですが、大手ならそこそこ高待遇です。額面年収はそれほど高くありませんが、大手の場合特に住宅周りの福利厚生が手厚い企業が多いです。僕の場合2回転職していて業界内の待遇はかなり入念に調べていますが、この印象はほぼ変わりませんでした。
例えば自動車関係はもっとお給料は高いですが、住宅関連補助はかなり貧弱なので巷で言われるほど可処分所得は高くありません。素材系メーカーの場合年収という言葉の響きはそれなりですが、可処分所得で考えれば結構いい線いく企業が多い印象です。1馬力で妻と子ども1人なら楽勝でしょう。もちろん中小ではイマイチ。これはどの分野でも同じですね。
ブログでは詳しく書けないのでnoteで詳細を書きました。これから社会人になる人、中小から大手に転職を考えている人、素材開発エンジニアの待遇を知りたい方が気になる、リアルな実録を綴ってあります。ご興味のある方はどうぞ。
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4.【まとめ】素材メーカーの4つの志望動機
素材メーカーの志望動機をまとめます。
- いつでも必要とされる縁の下の力持ち
- 陰キャラに向いている
- 会社のカネで好奇心を満たせる
- そこそこ高待遇
あんまり参考にならなくてすみませんが、知的探究心とそこそこの待遇を両立できる環境としては申し分ないというのが率直な意見です。
製造業の中でも素材メーカーは比較的地味な存在ですが、飽くなき好奇心で少しでも盛り上げたいところです。
因みに「素材」と似たような呼称に「化学」がありますが、一般的に「化学」は「素材」の位置構成要素で素材の方がより広い領域をカバーします。
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同じく化学工学畑の現場で働く技術系社員です。化学工学に加えて統計などにおm詳しく、専門的な内容を詳細に解説された分かりやすいブログです。よろしければどうぞ。
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プロフィール
自己紹介 どうも。こんにちは。 技術ブログ「雷電風雨のエンジニア」を運営するこーしです。 簡単に自己紹介します。 個人的な目標 技術者として「残された時間があまり無い」ということをつねに
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