4月後半といえば、製造業の風物詩である工場実習の時期。会社側から工場実習の意義についての十分な説明を受けることもなく、いきなり製造ラインで単純作業に投入されて辟易としている方も多いことでしょう。
工場実習に悩む総合職採用の製造業新卒社員向けに、中堅の材料開発エンジニアから見た工場実習の意義について紹介します。
1.工場実習とは
日系の大手メーカーで採用されている研修制度です。工場研修と言われることもあります。「現場を知る」ために大卒・院卒新入社員が実際に製造現場に配属され、現場作業に従事します。
工場実習がピンとこない方は、営業・マーケティング職種で見られる販売実習の工場版のイメージです。販売実習は土地・住宅などの不動産業、コンビニチェーンなどの卸売業もそうですが、自動車・家電などの"B to C"(Business to Customer)業態の耐久消費財を扱う製造業でも見られますね。
1-1. 実習期間は数週間~最大で1年程度
期間は企業や職種によっても様々。短いところでは2週間程度、長いところだと1年にも及ぶと言われています。主に新卒入社社員を対象ですが、キャリア入社でも数週間程度の研修を行う場合もあります。
筆者の新卒入社企業では4月中旬~お盆休みまでの4か月間でした。入社人数や繁閑によっても異なっていた様子。筆者は転職経験もありますが、キャリア採用で入社した企業は1日1工程で約2週間のメニューでした。
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1-2. 実習メニューはオペレータ業務
一作業員として製造ラインの作業に従事します。作業標準化が進んでいる自動車組み立てラインなどでは期間従業員と全く同じ作業をやります。大卒・院卒で高尚な勉強をしてきたとか、一切関係ありません。
筆者が新卒で入社した素材産業では2交代の現場に配属。週替わりで①7時~17時、②17時~5時の勤務でした。夜勤明けの土日が滅茶苦茶辛かったのと、夏場は日中暑くて寝不足でフラフラになって出勤する辛さが印象的でしたね。
実習期間が4か月。現場担当のベテラン作業員に付いて、担当作業員の業務の一部を少しずつやらせていただいてました。作業標準化が進んでいる作業をメインに、梱包された重い製品の運搬、製造装置や現場の清掃、工程検査などをやりました。
筆者の場合素材産業の特性もあるんでしょうか、基本的にはめちゃくちゃ作業負荷の高い作業が多かったです。女性の場合はお手洗いが未整備、労働安全衛生法上の都合事情で、実習が免除されたり検査工程で実習をするケースもあるようです。
キャリア入社企業では実習期間が2週間と短く、一切手出しはさせてもらえずひたすら実作業見学。実習というよりはただの研修ですね。新入社員の時にはなかなか気づけませんが、大卒・院卒のお給料を頂きながら、数か月もの工場実習を経験できるのは新卒社員の特権です。
1-3. 交替制実習ならお給料多め
会社によっては実習期間中に交替制の現場に入ることもあります。その場合は交替勤務手当や深夜手当なども支給対象となります。筆者の場合2交代+40hr程度の時間外対応も併せて現場実習だったので、実習期間中は諸手当込みで基本給×1.7倍くらいもらってました。新卒入社直後はお金がないケースも多く、筋トレしながらたくさん勉強させてもらえて、しかも上乗せのお金までもらえる期間ととらえることもできます。ぶっちゃけたくさんお金が貰えるから仕方ない、と割り切って工場実習に取り組むという人もいました。
2. 工場実習の6つの意義
工場実習って何のためにやるんでしょうか?よく言われるのは「現場を知る」ため。それはそうなんでしょうが、「現場を知る」って言われても、ぶっちゃけ地頭の悪い筆者はピンときませんでした。実際に工場実習って意味ないよね?っていう声も毎年よく聞きます。
「現場を知る」という抽象的な目的だけが独り歩きし、その意義を教わることもなかったからです。筆者が新卒だった10年近く前は少なくともオフィシャルに会社側から意義を直接聞く機会はありませんでした。お酒の場で役員から少し聞きましたが、役員すら納得感のある言語化が出来ておらず非常に曖昧でしたね。
というわけで中堅社員となった素材開発エンジニア目線で、工場実習の意義を考えてみました。
2-0. 工場実習って意味ないの?
そもそもこういう声も良く聞きます。しかし本当に意味ないなら、わざわざオペレーターが出来る仕事を大卒や院卒の給料を払ってまでやりません。大卒・院卒の方はあまりピンと来ないかもしれませんが、オペレータよりもはるかに高い給料を会社は払っています。敢えてドライに言いますが、もっと安くて若い労働力を使えばいいだけです。
そうは言ってもちゃんと聞かされずに単純作業ばかりやら晒されてしまうのも現実でしょう。だから意味がないと感じてしまうのもある程度は仕方ないのかもしれません。
2-1. 意義①:総合職としての責任感の醸成
現場作業の大変さを知ると同時に、自らの指示の責任の重さを実感させるのが工場実習を経験する最大の目的だと筆者は考えています。総合職の場合自分で手を動かすだけでなく、自ら仕事を作って指示を出すのも仕事になってきます。もし自分が誤った設計・指示をしてしまった場合、自分の労力よりもはるかに大きい労働が無駄になります。最悪の場合、自分が間接的に作業員の人生を奪う事にもなりかねません。
自分の設計した装置、自分が決めた作業手順に安全上重大な瑕疵があって、それが原因で労働災害を起こしてしまったら…。操業を担当していた現場作業員はどうなってしまうのでしょうか。或いは自らの製品・装置設計に不備があって、どんなに作業員が一生懸命頑張っても不良品を大量生産し続ける製造ラインを作ってしまったら…。何の罪もない現場作業員の雇用を奪ってしまうかもしれません。
自分が依頼した生産調整の裏で、どれだけの人を振り回す結果につながるのか。頻繁な変更がどれほどの現場の混乱を招くのか。実際に現場作業員としての経験があって初めてわかるもの。深く考えずに依頼して現場の皆さんが汗水垂らして対応頂いた作業が、自分の凡ミスで全部水の泡になったら…。指示が間違ってたので一からやり直しです、ってどんな顔して言えばいいでしょうか?
交代勤務・早朝深夜業の仕事をされている方の肉体的負荷をしらずに、気軽に夜勤を前提とした業務フローを組んでオペレーションが上手くいかなかったりすることだってあるでしょう。自分の仕事がどれだけの影響力を持つのかを実体験できれば、自ずと責任感も生まれるのではないか。こうした考えのもと、数か月にわたる工場実習をやらせていただいたと思っています。
2-2. 意義②:学生から社会人の気持ちの切り替え
一番大事なことは意義①で述べてましたが、筆者が考える残り5つの工場実習の意義も引き続き紹介します。
学生から社会人になって一番変わるのは、お客様から労働者に変わること。特に理系大学院だと研究も結構きつかったりしますが、お金払っている立場。少々サボっても単位が貰えなくて留年する程度でしょう。労働者でサボってしまうと職務怠慢で最悪の場合懲戒処分です。やりたくない仕事でも業務指示として淡々とこなしていく姿勢が必要です。
入社時の研修なども受身の研修が多い為、お客様気分を完全に抜くのも現実には難しいことでしょう。その意味でも現場実習の大きな意義の一つだと思います。
2-3. 意義③:工場目線での5S体得
製造業の実習と言えば「工場」で行うことが多いもの。工場には安全や品質を担保するため、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が徹底されているものです。また工場へのモノの持ち込み・持ち出しも厳しく管理されていたりすることもあります。
筆者がやっている素材開発エンジニアという職種は、学生気分が抜けきれずに大切なサンプルを乱雑に放置している人も多かったりします。事務系の方でも客先の機密情報満載の書類をデスクに放置する人も実際に居ます(もちろん注意されると思いますが)。
こぼした薬品を放置して、別の人が知らずに素手で振れて労働災害になってしまったり。工場の中で置き忘れたペンが製品に混入して客先で発覚、なんてことだって実際にあります。新卒社員が入社直後には想像できない、あるべき整理整頓の姿に近い状態を知っておくことは社会人として働く上で必要です。
2-4. 意義④:現場ベースでの製造プロセスの理解
工場実習の一番の目的はこれだと新卒当時の筆者は思ってました。特に筆者の場合、素材産業で新卒での入社企業は中小企業。どの部署でも管理職クラスなら製品群の個別事情はそれなりにわかっていないと務まりません。事務系・技術系で求められるレベルは違っても、製造プロセスはある程度知っている必要があります。
社会人経験を積むとよほど異業種でもない限り、知らない製品群でも工程概略図などの書類(QC工程図、FMEAなど)を見れば凡そのプロセスは把握できるようになるもの。しかし新卒社員は工場のような大スケール設備を実務ベースで触っていないのでイメージが出来ません。
習うより慣れろというと精神論のように聞こえるかもしれません。個人的には精神論は大嫌いです。それでも製造業なら「習うより慣れろ」は大事にすべき視点だと考えています。
新卒入社のときの工場実習の経験は今でも活きています。キャリアで入社した会社では、自分で手を動かす現場実習はありませんでした。
2-5. 意義⑤:価値観の異なる人とのコミュニケーション方法体得
新卒で総合職入社される方は大卒や院卒の方が殆どでしょう。しかし実際に現場で日々手を動かしてくれる方は高卒の方も多いもの。工場には身体を動かすことは得意だけど難しいことは良くわからん等、大卒・院卒とはバックグラウンドが全く異なる方々がたくさんいます。
大切にしているもの、仕事への拘り方などのマインド等、良くも悪くも違っていたりします。一生懸命やってくださるけど滅茶苦茶厳しくて無愛想な職人肌の方、やる気を出していただくまでが大変な方・・・。ぶっちゃけ色んな癖のある方も多いです。
製造業の総合職はその名の通りなんでも屋さん。特に色んな装置を扱ったり、1人では到底運べない分量を扱ったりします。製造業に限った話ではないのですが、自分一人でできることは意外と少なく、現場の方にお願いするのも大事な仕事です。
気性が荒かったり、メリハリを着けるのが苦手だったり、学歴関係なく色んなタイプの作業者と上手く折り合いをつけていく必要があります。どうすれば可愛がってもらえるか、どうすれば嫌われやすいのかを体感できる貴重な機会。企業規模が小さい場合だと、配属事業部が確定してて事業部間の異動が少ない場合には人脈作りも兼ねられます。積極的にコミュニケーションを取って行きたいところです。
因みに僕は夜勤終わりにすき屋のキング盛を完食し、大食い院卒社員として顔を売ることが出来ました。若くても現場から認められるための手段にも使えます。
また自ら手を動かしながら現場を先導するのも、特に製造業の技術系総合職の大切な仕事。ちょっとしたトラブルくらいなら自分でやって見せるのも大事ですが、これも現場経験がなければ厳しいもの。現場担当者が一生懸命対応に追われる中、右往左往することに。これでは信頼は得られません。
2-6. 意義⑥:反面教師を知る
手を動かせない口だけの偉そうな人、現場に来ない偉い人の指示で振り回されている現場を目の当たりにする絶好の機会が工場実習です。特に製造業の総合職は初めからそれなりの責任を求められるので、立場の弱い若手のうちが一番感度よく気づくことでしょう。
現場の一般作業員の方は、常に総合職や工場のリーダー以上の職責の方から指示を受け止める立場。その人たちが気持ちよく仕事できないなら、安全・品質・生産性に悪影響が出ます。こうした負の側面を知る絶好の機会でもあると考えています。
3. 工場実習の不都合な3つの会社側事情
ここまで工場実習を可能な限り前向きにとらえ、筆者が考える工場実習の意義を紹介しました。でもぶっちゃけきれいごとばかり並べられても面白くないですよね笑。
というわけで個人的に感じる、現実的な会社事情も紹介します。あくまで材料開発エンジニアからの一意見であって、人事的なホンネ事情は一切知りません。あくまで想像の話ですが、企業によっては十分ありうると思っています。
3-1. 会社事情①:労働力の調整弁
工場労働は一般職の正社員は勿論のこと、期間工を含む契約社員・派遣社員の協力のもとに成り立っています。協力いただく代わりに会社は、少なくとも一定期間の雇用を約束しています。
今年は仕事少ないから1年休んでもらっていい?、なんて会社が一労働者に対して言えません。それでも現実には景気動向によって仕事量が大きく変わります。安定して雇用を約束するのは実際にはすごく難しいのです。
そこで実習生の出番。実習生は将来的には幹部としての業務を担当するからこそ、実習期間を会社都合で柔軟に変えることが出来ます。しかも若くて良く働ける良質な労働力ですからね。不景気の時は2か月で掃除ばかりさせられる実習だったり、好景気の時は次の実習生がくるまで現場実習が続くことも。新卒で入社した会社は梅雨時からお盆くらいまでが最も忙しいことが多く、それに合わせて実習メニューを組んでいたようです。
現場に配属される新卒社員の立場からすると不満の出やすいところ。中堅クラスになると、運営側の事情が良くわかってきます。まぁ新卒社員にとってはそんなの知らんがな、なんでしょうけど。
3-2. 会社事情②:職場の活性化とレベルアップ
これを不都合というのは言い過ぎかもしれませんが、これも会社側にしかないメリットですね。
新しい人が入ってくると、職場はそれだけでフレッシュな雰囲気になります。特に日々の変化に乏しく単純作業が多いオペレーター中心の職場であればなおさらです。無意識に変化を嫌う組織風土になりやすい職場だからこそ、毎年実習社員を受け入れることに職場側のメリットがあります。
また新卒社員へのオペレーター作業の教育を通して、日々の作業ではなしえない現場社員のレベルアップも期待できます。自分でできることと人に教えることは、必要な理解度が全く違います。新卒社員側から作業の目的・意味を質問することもあるでしょう。これが現場改善のヒントになったりすることもあるかもしれません。
特に気負う必要はないのですが、普通に疑問に思ったことを尋ねるだけでも会社への貢献につながる可能性があります。
3-3. 会社事情③:人事的な選別
6つの意義でも述べたとおり、現場実習には多くの意義があります。ならば事前に全て説明してくれても良さそうなものですが、多くの場合実習の意義は殆ど語られません。
筆者の新卒入社企業のみならず、キャリア入社した企業の新卒社員も特別聞かされていなかった様子。つまり現場実習からどれだけの物をくみ取れるかを新卒社員に委ねています。実習レポートを見て面談すれば一目瞭然でしょう。
仮に1つもくみ取ってくれなかったとしても、雇用の調整弁、職場活性化という目的は果たせます。
4. まとめ
メーカー勤務新卒社員の登竜門である工場実習の6つの意義について紹介してみました。6つの意義をおさらいしてみます。
①:総合職としての責任感の醸成
②:学生から社会人の気持ちの切り替え
③:工場目線での5S体得
④:現場ベースでの製造プロセスの理解
⑤:価値観の異なる人とのコミュニケーション方法体得
⑥:反面教師を知る
あくまで人事事情を知らない、中堅の材料開発エンジニア目線で感じる工場実習の意義です。聡明な読者の方ら、いやいやもっとあるでしょ?と思われるかもしれません。
筆者なりに新入社員時代に色々悩んだ経験、実務を詰んで改めて振り返って気付いた点も合わせてまとめてみました。工場実習を前向きにとらえて頂けるヒントになれば幸いです。
どうしてもオペレータ業務が退屈なら、この機会にエントリークラスの資格取得を頑張ってみるのもいいかもしれません。素材産業の技術系なら危険物取扱者や毒劇物取扱責任者がとっつきやすくていいと思います。筆者は現場実習真っ最中の1年目の7月に甲種危険物取扱者を取りましたが、他に気になる資格があればそれでも良いでしょう。
危険物取扱者甲種の受験記~一発合格~
サラリーマン生活では資格取得も一つの仕事です。製造業等の工場で出番の多い資格で、「危険物取扱者甲種」を社会人1年目の夏に受験・一発合格しました。 これから受験を控えている方、自己啓発で受験を検討されている方に向けて合格までの受験記を綴ってみます。 1.危険物取扱者とは 1-1.危険物とは 危険物は大きく分けて6種類に分けられます。ガソリンなどの引火性液体(第4類)が最もメジャーでしょうか。 これ以外にも肥料などに使われる硝酸アンモニウムなどの酸化性固体(第1類)、鉄粉などの可燃性固体(第2類)、空気に晒さ ...