PR

企業分析

【製薬大手5社徹底比較】国内大手ならタケダよりアステラス

2020-05-16

【2020年3月期版】製薬会社はCMでも馴染みのある人が多い企業群ですね。医薬品は人の生死にかかわるので景気動向を受けにくくい業界ですが、個別株だと明暗がはっきりしています。

国内大手の勝ち組はアステラス製薬、次点で大塚HDでしょう。株価、キャッシュフロー、財務状況から、製薬国内大手5社と米国株の大手ジョンソン&ジョンソン(JNJ)の計6社を投資対象として比較してみました。就職や転職を考えている方にも参考になると思います。

1. 製薬株の2つの魅力

製薬株の魅力は次の2つです。

  • 景気変動による業績の浮き沈みが少ない=ディフェンシブ
  • 世界的に高齢化が進み、市場のパイは広がり余地が大きい

製薬業界は人の健康や生死にも関わる為、景気変動の影響を受けにくくディフェンシブ銘柄と言われています。また世界的に高齢化が進めば医薬品を利用する人口も増加し、市場は広がる方向に行くでしょう。

一方で有力な薬の特許が切れてしまえば、後発薬に押されて薬価も下落して苦戦します。また簡単に新薬が見つかる時代でなくなってしまったこともあり、個別株では勝敗が大きく分かれる業界となっています。

業界自体はディフェンシブですが、個別株は十分に銘柄分析して選定する必要があるでしょう。

2. 製薬大手6社とは

製薬業界の国内大手5社といえば、売上高の多い順で、武田薬品(4502)、アステラス製薬(4503)、大塚HD(4578)、第一三共(4568)、エーザイ(4523)となっています。これに米国株医薬業界の雄ジョンソン&ジョンソンを加えた6社を製薬大手6社として比較してみました。

業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。特に製薬企業はMRを始めとしてすでにリストラが始まっているとも噂されています。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。

ちなみに僕が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。激動確実の製薬業界では中途採用だけでなく、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。

27歳で会社を辞めて結婚した僕の末路

アラサー世代は今の仕事・会社で悩んでいる方も多い世代ですよね。また結婚適齢期ということもあり結婚で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 現在上場企業で数年勤務していますが、27歳の時に2年勤務した ...

続きを見る

3. 製薬株6社を徹底比較

3-1. 比較①:株価推移

国内大手5社(武田薬品、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ)とJNJの株価を比べてみます。大塚HDが発足した2010年12月を100としたときの指数で表しました。製薬業界はリーマンショック後底値の2009年2月から約2年間大きな株価変動はなく、持株会社に移行した大塚HD以外はリーマンショック前後の変化も十分比較できるでしょう。

2005年から2020年までの国内製薬大手5社(武田薬品、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ)の株価推移の比較
各社有価証券報告書から作成

ベンチマークとして日経225平均も入れてあります。日経平均から大きくアウトパフォームしている銘柄はないのが特徴ですね。数年スパンでは浮き沈みはあっても長期でみるとそれなりに日経平均と連動しています。良くも悪くも大きく突出する事のないディフェンシブな性質が表れていると言えますね。

3-1-1. 特許切れ以降苦戦のタケダ

そんな中一人負け独走状態なのが武田薬品。製薬大手の中で唯一リーマンショック前高値を更新していません。売り上げと株価が大きく連動しないのは製薬業界に限った話ではありませんが、世界のタケダも例外ではありませんでしたね。

アイルランドのシャイヤー社買収の市場評価の影響は絶大のようです。一般に企業買収はプレミアムを支払うことになるので、買収する側は株価下落、買収される側は株価上昇する傾向にありますからね。

3-1-2. 浮き沈みの激しい第一三共とエーザイ

ただ第一三共、エーザイも浮き沈みが激しく、ディフェンシブとは言いつつもゆったり右肩上がりとは程遠いです。この相場の中保有し続けるのは難しいかもしれません。

3-1-3. 値動きの穏やかな大塚HDとジョンソン&ジョンソン

比較的穏やかな値動きをしているのがJNJ、国内大手では大塚HDです。アステラス製薬も2013年以降やや割高に見えますが、レンジ相場なのでそれほど不安感はないでしょう。

本比較では、JNJ>大塚HD>アステラス製薬>エーザイ≒第一三共>武田薬品の順序になります。世間的なイメージと株価があまり一致していないようにも見えますが、財務分析を進めていけば納得できるのでしょうか。

業界「全体」としては日経平均と比較して変動が控えめということは言えそうです。

3-2. 比較②:自己資本比率の推移

重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。

この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。

2005年から2020年までの国内製薬大手5社(武田薬品、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ)の自己資本比率推移の比較
各社有価証券報告書から作成

右肩上がり、V字回復、右肩下がりと様々です。高利益製品群の特許が健在だった2005年頃まではどの会社も財務優良だったのですが、特許切れとともに後発薬に押されてハードモードに突入といったところでしょうか。

とくに自己資本比率が大きく変動している年は大型M&Aを実施している年ですね。自己資本比率変動が大きい年には数千億以上の規模のM&Aやってます。製造業といいつつもM&Aの成否も明暗を大きく分ける要素になってきそうです。

  • 2019年、武田薬品のアイルランド・シャイヤー社買収、6兆8000億円。
  • 2017年、JNJのスイス・アクテリオン社買収、300億ドル。
  • 2015年大塚HDの米バイオベンチャー・アバニア社買収、35億ドル(4200億円)。
  • 2019年、アステラス製薬の米オーデンテス社、30億ドル(3200億円)
  • 2008年、第一三共のインド・ランバクシー社、46億ドル(4900億円)、2014年売却。
  • 2006年、エーザイの米MGIファーマ社、39億ドル(4300億円)

同じ製造業とはいえ、このM&Aの額が総合化学業界や総合重機業界とは様相が全く違います。そういえば昭和電工という柄に合わない無謀なM&Aやってた総合化学企業もありましたね。

企業分析

2023/2/26

【総合化学7社徹底比較】復活の東ソーor堅実な信越化学

【2022年3月期版】日系化学メーカー大手の長期推移を様々な指標で比較してみました。日本株ではBtoBビジネスの地味な製造業である化学メーカ。景気動向を受けやすく浮き沈みが激しい業界の中でも、投資対象としては財閥系よりも魅力的な企業が2社もあります。 その2社とは見事な復活を遂げた東ソー、堅実経営の信越化学。株価、キャッシュフロー、財務状況から、総合化学大手7社を投資対象として比較してみました。投資対象としてはもちろん、転職を考えている人にとってもしっかり確認したい内容となっています。 1. 総合化学株の ...

ReadMore

企業分析

2023/2/26

【重工メーカー比較】国内大手4社なら住友重工

【2022年3月期決算版】日本株ではBtoBビジネスの中でもビッグスケールの製造業である重機メーカー。日経平均よりは穏やかで比較的景気動向を受けにくい業界の中でも、投資対象としての魅力は規模に比例しません。 国内大手4社の三菱重工、IHI、川崎重工、住友重工の中では住友重工が最も魅力的です。株価、キャッシュフロー、財務状況から、総合重機国内大手4社と独シーメンス1社の計5社を投資対象として比較してみました。特にリーマンショック前後の推移もわかるよう、15年間での推移を比較してあります。 投資対象としてはも ...

ReadMore

企業分析

2023/2/26

【大手5社徹底比較】電子部品ならムラタor日本電産

【2022年3月期版】直接的には馴染みがないけれど、意外と身近な製品に使われる電子部品メーカー。スマートフォンの普及とともに大きな恩恵を受けている業界ですが、個別株だと明暗がはっきりしています。 国内大手の勝ち組は村田製作所と日本電産。株価、キャッシュフロー、財務状況から、国内大手5社を投資対象として比較してみました。歴史は繰り返させるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移も載せてあります。就職や転職を考えている方にも参考になると思います。 1. 電子部品メーカー株の3つ ...

ReadMore

食品工場のイメージ図

未分類

2023/2/17

【食品メーカー徹底比較】大手6社なら明治HD・味の素が勝ち組

国内の食品大手企業について、IR情報を元に素材業界所属の筆者が徹底比較します。ここでの食品大手とは、食品業界における飲料を除く主要ジャンルで売上高トップの6社を言います。具体的には明治HD、日本ハム、味の素、山崎製パン、マルハニチロHD、日清製粉の6社としました。 原価率が高く廃棄ロスのリスクも大きい食品業界において、安定的な成長という点では明治HDが圧倒。アグレッシブな経営手腕を発揮している味の素も明るい未来が見える有力企業と言えそうです。歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前 ...

ReadMore

企業分析

2024/10/24

【8社徹底比較】非鉄大手なら住友金属鉱山一択も、業界の先行きは暗い

【2024年3月期決算反映】非鉄メーカー国内大手8社を徹底比較しました。住友金属鉱山、東邦亜鉛、DOWAホールディングス、JX金属(ENEOS傘下)、日鉄鉱業、古河機械金属、三井金属鉱業、三菱マテリアルの8社の中でも、住友金属鉱山がダントツトップ。売上高トップの三菱マテリアルは低迷している様相。 素材メーカーの中でも資源権益も絡んでいて比較的羽振りの良い非鉄メーカーですが、必ずしも売上規模と関連していないのも興味深いところ。IR情報15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。 歴史は ...

ReadMore

3-3. 比較③:従業員1人あたり営業利益の推移

従業員1人あたりの営業利益額推移の比較結果を見ると景色が一転します。効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。

2005年から2020年までの国内製薬大手5社(武田薬品、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ)の営業利益額水の比較

全社とも右肩下がりとなっています。それでも最も低い武田薬品でも、2019年度で従業員1人当たり210万円、大塚薬品で同540万円を稼いでいます。素材産業は1人あたり200万円出ていればかなり頑張っている部類なので、産業構造の違いを感じさせられます。

3-4. 比較④:従業員平均年収の推移

2005年から2020年までの国内製薬大手5社(武田薬品、アステラス製薬、大塚HD、第一三共、エーザイ)の従業員平均年収推移の比較

なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。製薬業界は製造業の中でも極めて給与水準が高い業種。さらに他の製造業とは異なりリーマンショック(2009年度前後)による影響を殆ど受けていないことも特徴です。ジェネリック薬品に押されているのは事実ですが、従業員給与は右肩上がりをしています。

実際に1人あたり営業利益も余力があります。MRなどの一部職種は、職種特性上苦しいかもしれません。しかしその他職種では少なくとも先発薬メーカーに限って言えば従業員報酬を出す余力があります。事業特性として専門性が極めて高く優秀な社員が必要、かつ参入障壁が高いゆえにまだまだ高待遇が続きそうです。

他業界との年収の違いは就職四季報も参考にしましょう。有価証券報告書とは異なり、総合職に限定した年収情報が満載です。

筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっていますが、これを見ると業界による違いを強く感じます。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。

【2023年版】東大卒サラリーマンの年収・資産推移を大公開~素材エンジニア|素材さん@東大卒季節労働者
【2023年版】東大卒サラリーマンの年収・資産推移を大公開~素材エンジニア|素材さん@東大卒季節労働者

※2022年版の情報に2023年情報をアップデートしました。  平凡な能力を最大限叩き上げて最高学府に滑り込んだ人がどれくらい稼いでいるのか気になりませんか。東大理系院卒・大手病だったのに中小にしか ...

note.com

4. その他財務指標比較

財務指標としてキャッシュフロー推移(営業CF、投資CFのバランス)、および1株利益(EPS)と配当、営業利益率の推移も確認してみます。

4-1. 武田薬品 ~かつての栄光の影なし~

4-1-1. CFと営業利益率推移

国内製薬業界の2019年度売上高は3兆円超と首位を独走する武田薬品。しかし営業利益率とキャッシュフローを見てみるとちょっと雲行きが怪しくなってきます。

キャッシュフローを確認します。営業CFは文字通り本業の事業活動での収支を表し、健全な企業はプラスを維持しています。営業CFのマイナスが続くようであればビジネスモデルの崩壊が起こっていると考えてよいでしょう。

売上高は2006年の3400億円から2019年度の3兆2000億円と約10倍まで増えているにもかかわらず、なぜか営業CFは一向に増える兆しがありません。残念ながら高利益体質は過去の栄光となってしまって久しいです。

武田薬品の2005年から2020年までのキャッシュフローと営業利益率推移
武田薬品HP有価証券報告書からSnowゆうぞう作成

投資CFは設備投資やM&Aなどでの収支を指します。次なる成長のためにある程度投資は必要なので、ふつうは営業CFの絶対値よりもすこし小さいマイナスです。製薬企業の場合は大型買収があるので、単年度で大きな投資CFが生じるのが特徴ですね。

4-1-2. 成果に繋がらないタケダの買収劇

武田薬品はここ十数年で数千億規模以上の大型買収だけで4件やってます。

  • 2019年アイルランド・シャイヤー社買収、6兆8000億円。
  • 2017年米アリアド社買収、54億ドル。
  • 2011年スイス・ナイコメッド、96億ユーロ(約1兆1000億円)
  • 2008年の米ミレニアム、89億ドル(約7200億円)
  • 2008年のTAP、約2400億円

2014年の赤字転落は米国での2型糖尿病治療アクトス訴訟関連で3200億円支払いによるものです。こちらは製薬企業につきものの一過性費用であり、差し引いてみてもよいでしょう。それでも度重なるM&Aを以てしても一向に増える気配のない営業CF推移からもタケダの看板が過去の栄光となった哀愁が感じられます。

しかし2013年にIFRS導入し、償却不要となったM&Aプレミアム費用相当である”のれん”残高が4兆円もあります。その中で営業利益率が10%切りで低位安定し始めたということは忌々しき状況と言っていいでしょう。

武田薬品の2005年から2020年までのキャッシュフローと営業利益率推移
武田薬品HPEDINET掲載有価証券報告書からSnowゆうぞう作成

2019年のシャイヤー社買収額のインパクトはこんな感じです。どう見ても青塗よりオレンジ塗の方が広いですね。つまり15年スパンで見ても稼げてないという事です。ちなみに公式HPでは2012年以前の決算資料が開示されていないことからも危険な香りを感じます。古い数字はEDINETからは拾ってます。

4-1-3. 武田薬品のEPSと配当、配当性向推移

次に1株利益(EPS)と1株配当、配当性向を見てみます。

武田薬品の2005年から2020年までのEPS、1株配当、配当性向の推移
武田薬品HP有価証券報告書からSnowゆうぞう作成

2011年以降配当性向は100%超が続いていて、10年以上も自己資本を削って配当維持している構図が見えます。2007年以前の営業利益率40%超時代の遺産を食いつぶし続けている状況ですね。自己資本比率は2007年の80%から2019年度決算での40%を下回り、シャイヤー社買収の成果が出なければ減配は避けられないでしょう。業界国内首位で知名度抜群。日経コア30にも長年君臨していますが、安易にタケダ株に手を出すのがいかに危険かわかりますね。

4-2. アステラス製薬~市場高評価も納得~

武田薬品以外の5社を見てみます。2019年度売上高は1兆3000億円と国内2位で、株式市場評価の高いアステラス製薬から見てみましょう。

アステラス製薬は国内大手製薬5社の中で、最も株主利益を意識しています。主力薬の特許切れで苦しんだのは他社と同じですが、その2010~2012年でさえ営業利益率は10%超と高利益体質です。過去のタケダのように40%超の暴利とまではいきませんが、適正でそこそこの利益を取り続けている優良体質ですね。

自社株買いと営業CF強化の合わせ技で1株利益(EPS)・営業CFとも右肩上がりトレンドです。日本株にしては珍しい部類と言え、時価総額の大きい日経コア30の名に恥じない戦闘力です。M&Aで多少の浮き沈みはありますが、まだまだ連続増配を続ける余力を感じます。

投資CFが大幅マイナスとなっている年にはやはり大型買収を行っています。ただ営業CFとのバランスを考えると身の丈に合った、堅実なM&Aと言えそうです。

  • 2019年米オーデンテス社買収、30億ドル(約3200億円)。
  • 2016年独ガニメド社買収、4億ドユーロ(約500億円)。
  • 2015年米Ocata社買収、4億ドル(約500億円)。
  • 2010年の米OSIファーマシューティカルズ、40億ドル(約3300億円)

2014年より導入したIFRSで償却されないのれんも2000億円程度ありますが、1年分の営業CF程度なので爆弾を抱えているとまでは言えません。僕は2017年にジョンソン&ジョンソンに乗り換えてしまいましたが、日本の製薬大手株の中では最も魅力的な選択肢だと思います。

4-3. 大塚HD ~バランス感覚に優れる~

2010年に大塚製薬などのグループ会社を持ち株会社化して設立された大塚HD。国内売上高は2019年度で1兆3000億円、売上高はアステラスに追いつけ追い越せの勢いですが利益ベースではまだまだ背中が見えません。ポカリスエットやオロナミンCなど医薬部外品や食品関連事業も持っているのが特徴ですね。

気になるのは2015年の大きく沈んだ投資CF。というわけでM&Aの歴史を見てみます。

  • 2018年米医療機器・ビステラ社、4億ドル(約500億円)
  • 2015年米バイオベンチャー・アバニア社買収、35億ドル(4200億円)
  • 2013年米バイオベンチャー・アステックス社、9億ドル(900億円)

2016年から導入したIFRSの影響も気になりますね。2019年度決算での”のれん”残高は2700億円。営業CF2年分弱。こうしてみるとアステラスののれん残高2200億円は企業規模に比べると低リスクと言えますね。

しかし配当性向も50%前後と多少余裕があることと、やはり医薬品以外の事業を持っているという意味では他の製薬大手に比べると投資リスクは低いと思います。

4-4. 第一三共 ~M&Aは懲りて堅実経営へ~

業界内売上高9800億円と国内4位の第一三共。2020年度以降も自社株買と配当を合わせた総還元性向100%目標を掲げています。売上高をやみくもに狙うというよりは儲かる薬を粛々とやる路線に変えたのでしょうか。ハエが飛ぶ薬工場で一躍有名となったラングバシー社の買収で痛手がトラウマになっていることが伝わってきます。

2008年は投資CFの大がおおきく赤字決算、2014年は利益が跳ね上がっています。というわけで影響しそうな大型M&Aの歴史を見てみましょう。

  • 2008年インド・ランバクシー社、46億ドル(4900億円)、2014年売却。
  • 2014年米バイオベンチャー・アンビット社、4億ドル(400億円)

2008年はラングバシー社取得関連、2014年は自分たちの手に負えなくなったラングバシー社売却益のようです。大型投資での大きな失敗は経営陣の大失態ですが、きっちりと損切りの判断を下せるのは不幸中の幸いです。この後大型投資を控えている姿勢からもM&A路線は肌に合わないと辞めたのでしょうか。衛生面で厳格な管理が必要な製薬業界としてインドリスクに手を出した経営陣の胆力もすごいものがありますね。

利益率は10%程度と医薬業界としては物足りないものの安定しています。配当性向にも余裕があり、配当で還元しきれなかった分を自社株買にあてると明言しているので、EPSもまだ伸びてきそうな印象です。

2014年からIFRS導入し、第一三共ののれん残高は770億円。営業CFを考慮すると地に足の着いた規模なので減損リスクは大きくありません。ラングバシー社の教訓を忘れない限り、投資対象としてはまずまずといった印象です。

4-5. エーザイ ~綱渡りは続く~

2019年度売上高は7000億と国内5位、チョコラBBのCMでもお馴染みですね。CFとEPSなど財務状況を見てみましょう。

2006年に米MGIファーマ社を39億ドル(4300億円)で取得してます。営業CFや1株利益(EPS)の伸びに反映されている気配はなく、特許切れのあとを買収でつないでいる印象です。

配当性向も70%超で安定しているので綱渡りを10年以上続けていることになります。キャッシュは株主還元と自己資本回復に充てられていると考えて良さそうです。

買収で30%台まで落ち込んだ自己資本も60%まで回復してきました。次の大型新薬が自社開発できなければM&Aを仕掛ける可能性はあるかもしれませんね。

2014年度決算からIFRS導入ものれん残高は1700億円。営業CFで2年分未満なので身の丈に合った規模ですね。ただ配当性向にもあまり余裕がなく2009年以降増配していないので、特許切れイベントの影響での減配リスクは高いと言えそうです。

5. 結論: 国内大手ではアステラス一択も、JNJには及ばず

今回は気合を入れて国内製薬大手5社の徹底比較をしてみました。国内大手ではアステラス一択であることはこれまで述べてきたとおりです。特許とM&Aが業績を大きく左右する製薬業界特有の事情があり、売上高との乖離が大きいのも特徴ですね。

ただ米国の同業ジョンソン&ジョンソンの財務状況をみると驚きます。2017年に300億ドル(約3兆円)もかけてスイス・アクテリオン社買収していますが、CF、EPS(1株配当)とも右肩上がりで連続増配を続けています。

というわけで日本株限定ならアステラス一択ですが、僕はアステラスを売却してジョンソン&ジョンソン75株(約11000ドル)保有しています。JNJの安定感は抜群で安心して長期保有できそうです。

大手企業というだけで投資すると痛い目にあいます。かつて僕はGEで痛手を受けました。銘柄分析をしていれば避けられただけに、投資対象の分析の大切さの教訓になっています。

GE損出しと臨時収入

職務発明関連の臨時収入が入ってきたため、底の見えないGE(ゼネラルエレクトロニック)の損だしを行いました。

続きを見る

日本の外食産産業は株主優待を頑張る方針ですが、僕は資金を引き上げました。優待を使える店舗が自宅近くに少なくて使いにくいこと、業績の安定感に欠け高リスクと判断したためです。ただ株主優待が使える店舗が近くにある人にとってはまだまだ魅力的でしょう。

すかいらーく株主優待~他社と比較~

米国株と日本株で配当金が入金されました。その中で株主還元利回りの高いすかいらーく(3197)の株主優待について、高還元を維持している理由と今後の保有メリットについて考えてみます。

続きを見る

  • この記事を書いた人

素材さん

東大卒を活かせてない経歴の社畜。工場勤務のヒントを綴ります。転職、結婚、資産形成、資格取得、仕事感。共通点ある方のヒントになれば幸いです。 転職1回目で僻地突入、転職2回目で僻地脱出。/30代前半/東大卒(学部・院)→中小→大手JTC→超大手JTC/素材開発エンジニア/既婚/3人兄弟の真ん中

-企業分析
-