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企業分析

【IR徹底比較】電線大手5社なら住友電工、大穴狙いなら昭和電線

2021-05-04

電線メーカー国内大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)のIR情報15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。

業界的に苦しい展開の電線メーカーですが、住友電工は独走状態で投資先/勤務先とも最も有望です。

歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。

目次

1.電線メーカーとは

2. 電線業界の大手メーカー分類
 2-1.電線大手5社(2015年~)
 2-2.旧電線大手5社(~2014年)
 2-3.電線大手6社

3. 電線大手5社を徹底比較
 3-1.比較①:株価推移
 3-2.比較②:自己資本比率の推移
 3-3.比較③:連結従業員数の推移
 3-4.比較④:連結売上高の推移
 3-5.比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移
 3-6.比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移
 3-7.比較⑦:従業員の平均年収推移

4.電線大手5社の財務比較
 4-1.住友電工 ~車載ハーネスの雄~
 4-2.古河電工 ~~
 4-3.フジクラ ~組織の危機感乏しい?~
 4-4.日立金属 ~ベインの大ナタに注目~
 4-5.昭和電線 ~経営刷新の本領はこれから~

5.結論:電線業界なら住友電工、大穴狙いなら昭和電線

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1. 電線メーカーとは

車載ワイヤーハーネスの写真
車載ワイヤーハーネス(住友電工HPより)

電線メーカーとは、素材としての電線を製造・販売する業者のことを指します。銅やアルミニウムなど鉄ではない金属製品を主原料としている為、上場企業分類では「非鉄金属」に分類されます。

金属塊であるインゴット原料を加工して電線を始めとした各種部品を作る業態ですね。発電やインフラで使われる送電線や通信ケーブルに使われる電線がイメージしやすいでしょうか。もちろん一定のマーケットは持っていますが、国内メーカーで圧倒的に存在感があるのは車載向けワイヤーハーネスです。

いずれの「電線」にしても同じ金属インゴット原料を使っても加工の仕方で特性が全く異なる場合も多く、意外とノウハウ色の強い業界です。全体的に斜陽傾向がみられる素材産業の中でも地味な業界ですが、自動車電動化の恩恵を受けて中期的には成長市場です。

鉱山から鉱石掘って、精錬して純度を高めた金属塊(金属インゴット、地金とも言う)をつくるのは主に非鉄大手8社が手掛けていて、棲み分けがされています。

金のインゴット写真
金のインゴット(田中貴金属HPより)

素材メーカーとはそもそも何ぞやという事に関しては、こちらの記事をどうぞ。

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2. 電線業界の大手メーカー分類

電線メーカーはかつて電線専業で手掛けていた会社も多かったですが、再編が進んで電線だけで生き残っている会社は絶滅危惧種。過去5年間でも業界内で再編がありました。そこで本記事での分類を含め、いくつかの分類を紹介します。

なお筆者は素材産業で3社の内情を知る材料開発エンジニアです。そんな筆者の2回目の転職記に興味がある方はこちらもどうぞ。

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2-1. 電線大手5社

電線大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)のロゴ

電線部門をもち、日経ニュースなどで取り上げられる分類です。

具体的には、住友電工(東証5802、2019年度連結売上高3.1兆円)、古河電工(東証5801、同9100億円)、フジクラ(東証5803、同6700億円)、日立金属(東証5486、同8800億円)、昭和電線(東証5805、同1700億円)の5社を指します。

電線大手5社のなかでも実質的に電線専業と言えるのは昭和電線のみで、他の4社は非鉄金属産業の1部門として残っている状況です。本記事での大手5社の比較は、これらの5社で実施しています

2-2. 旧電線大手5社

現電線大手5社のうち、日立金属に取り込まれた日立電線が日立金属と入れ替わった分類です。日立電線は2013年に日立金属に吸収合併されたので、実質的には新旧とも同じ会社を指して「電線大手」と呼んでいることになります。

吸収合併される直前の2012年度売上高は3600億円、2020年度は1900億円なのでたった8年間で売上げ半減した斜陽部門ですね。

電線大手5社の4~12月期決算、3社が経常増益。電子関連事業がけん引
電線大手5社の4~12月期決算、3社が経常増益。電子関連事業がけん引

電線大手上場5社の15年4~12月期決算が5日出そろった。経常利益は住友電工、古河電工、フジクラの3社が増益。昭和電線ホールディングスは経常赤字が拡大した。スマートフォン向けなどで好調だった電子...

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2-3. 電線大手6社

電線大手6社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立電線、昭和電線、三菱電線工業)のロゴ

旧電線手5社に三菱電線工業(現三菱マテリアル完全子会社)を加えた6社を指します。2010年に完全子会社化に伴い上場廃止となり、電線大手6社という呼び方も消えてしまいました。2008年度決算では売上高894億円、2019年度決算では425億円。事業売却・譲渡があったとはいえ、約10年で売上が半減。当事者はもちろんですが、競合も含めて国内では採算がとれない縮小・撤退する斜陽部門を感じさせられる動きですね。

電線大手6社、欧州委から「告知書」受領 カルテルの疑いで: 日本経済新聞
電線大手6社、欧州委から「告知書」受領 カルテルの疑いで: 日本経済新聞

住友電気工業と古河電気工業、フジクラ、日立電線、昭和電線ホールディングス、三菱電線工業の6社は7日までに欧州委員会から高圧電力ケーブルのカルテルに関する異議告知書を受領したと発表した。各社は内容を精査

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2-4. 電線御三家

電線業界の売上上位3社である住友電工、古河電工、フジクラの3社を指します。かつては御三家ともてはやされた表現ですが、光ファイバー関連需要伸び盛りの2017年頃を境にほとんど聞かなくなりました。古河電工もフジクラも利益体質では住友電工の足元にも及びません。御三家と言えば何でも名門風ですが、住友電工一人勝ちの中この表現もあまりしっくりこなくなってきています。

かつての「電線御三家」、なぜ今絶好調なのか | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
かつての「電線御三家」、なぜ今絶好調なのか | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

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3. 電線メーカー大手4社の15年推移を徹底比較

電線メーカー国内大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の各種指標の15年間推移を徹底比較します。15年間推移を確認している理由は、企業体質の本質を見るためにアベノミクス以降の好景気では不十分と考えているからです。経営危機であるリーマンショック前後の挙動で、伝統ある企業体質が如実に表れると考えています。

また様々な指標から確認することで、各企業の強み・弱みが見える場合もあります。投資や転職などリスクある判断をする場合には丁寧に見ておきたいところです。

筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっています。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。

東大卒サラリーマンの年収・資産推移を大公開~大手素材メーカー~|素材さん@東大卒季節労働者|note
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3-1. 比較①:株価推移

リーマンショック後の底値付近である2009年2月を100としたときの指数で表して比較してみます。リーマンショック前後を含めた過去15年間の推移を見てみましょう。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)と日経225平均株価の2005年4月から2021年3月までの株価推移を比較した図

ベンチマークとして日経225平均も入れてあります。2021年3月末現在(グラフ右端)、日立製作所からの売却が決まっている日立金属のみ日経平均からアウトパフォーム、他の4社は惨憺たる状況です。

特にリーマンショック前後での下落幅は日経平均よりも大きく、長期投資なら大損を蒙っていることでしょう。日立金属は2020年4月に大規模検査不正発覚で大幅下落も、2020年10月の売却先検討報道で株価を伸ばしました。これも投資というよりは投機的な動きなので、株式投資としては初中級車は手を出すべきでない銘柄ですね。

3-2. 比較②:自己資本比率の推移

重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の2005年度から2020年までの自己資本比率推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

業界3位の日立金属が足元最も高い自己資本比率となっています。業績が良かった間に財務体質を改善して売却の足枷にならないようにしていたのでしょうか。

業界1位の住友電工は高位安定型となっていて財務体質は磐石。業界2位の古河電工、業界5位の昭和電線は低迷の期間を経て緩やかな改善の兆しがみられてきたところです。業界4位のフジクラは一貫して減少傾向で、経営上大きな課題を抱えている可能性があります。

電線メーカーは業界全体としてかなり苦しい業種。売却・上場廃止となる日立金属を除けば、投資家目線では住友電工がハイリスクながらもギリギリ投資価値あり。自己資本比率だけを見ればその他3社は投機的水準と言えそうです。

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3-3. 比較③:連結従業員数の推移

連結従業員数の比較です。斜陽産業である電線業界の特徴がしっかりと表れている指標のため、確認しておきましょう。2005年度の連結従業員数を100としたときの指数での推移比較、連結従業員数の単純な推移比較の2つを見てみます。

住友電工・フジクラ・古河電工が単調増加でしっかり従業員数を増やしています。特に住友電工はたった15年間で従業員数を2倍以上にしています。リーマンショック後の苦しい時期にも従業員を絞ることなく、事業拡大に伴う増員を計画的に実施していることが読みとれます。

昭和電線はリーマンショック直後を境界として単調減少基調となっています。繊維産業の競争力低下に伴い人員を縮小していることが読み取れます。日立金属は日立電線連結化で2013年度に大幅増となっていますが、実力としては減少基調と言えそうです。

連結従業員数28.4万人のうち、車載ワイヤーハーネスを主とする自動車関連事業の人員が大半を占めます。2019年度末で22.5万人を抱える事業ですが、2005年度は9.1万人しかいませんでした。大半が海外製造子会社の工員と言われています(※IR資料からエビデンス見つけられませんでした)。もちろんエンドユーザーの需要あってこそなんでしょうが、1つの事業で13万人もの雇用をたった15年間で生み出してきた社会的意義はすさまじいものがあります。

3-4. 比較④:連結売上高の推移

3-4-1. 連結売上高の指数化による比較

2005年度の売上高を100としたときの推移を確認します。電線業界は車載ハーネスの存在感が大きいせいでしょうか、リーマンショック後の落ち込みが激しいのも特徴です。景気動向を受けやすい素材産業の中でも、耐久消費財向け材料・製品はかなり大きな打撃を受けます。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の2005年度連結売上高を100としたときの2005年度から2020年までの相対値を推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

売上高の伸び率でみると、日立金属がダントツトップ。特に日立電線連結化の影響は大きかったようです。しかし2019年には人数非開示で希望退職募集、日立製作所からの売却意向発表と同時に3200人の人員削減予定が公表されています。抱えている人員に見合ったビジネス展開はできていなかったという事なんでしょう。

従業員数を大幅に増やしている住友電工、自己資本比率が低下基調のフジクラも売上は増加基調です。逆に古河電工・昭和電線はリーマンショック底水準こそ超えているものの、アベノミクス景気の波に乗れていません。

3-4-2. 連結総売上高の絶対額比較

連結総売上高の絶対額推移も合わせて載せておきます。他業界では売上高と企業の未来は必ずしも一致しませんが、電線メーカーは最大手住友電工の独走で、しかも2位との差は大きくなる一方です。もちろん連結売上高単独で言えることは少ないので、営業利益を含め他の指標と組み合わせて判断したいところです。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の2005年度から2020年までの連結売上高推移を比較した図
各社有価証券報告書か素材さん作成

業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。

ちなみに僕が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。業界として拡大が続く中で中途採用も増えていますが、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。

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3-5. 比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移

従業員1人あたりの売上高推移の比較結果を確認します。労働効率、労働環境などは単なる売上高だけでは見えず、従業員一人当たり売上高を確認することで分かることもあります。ビジネスモデルにも大きく依存する指標なので一概には言えない部分もありますが、一つの指標としてみてみましょう。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の従業員1人あたり売上高について2005年度から2020年までの推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

長期推移でみると、日立金属、昭和電線の高位安定傾向が見えます。業績面が芳しくないことを考慮すると、高価な希少金属を原材料とすることで売価が押し上げられている可能性があります。古河電工はリーマンショック後から低位安定となっています。高単価品ビジネスから汎用品ビジネスへと戦略が変わった可能性もあるでしょう。

住友電工とフジクラは低下傾向ながらも元々低位安定です。特に住友電工は車載ハーネスの販売が急増していることも考慮すると、汎用品を安価に大量に作るビジネスモデルにスケールメリットが効いたという見方もできそうです。いずれにしても両社の労働者としての負荷は大きいことが予想されます。

3-6. 比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移

従業員1人あたりの営業利益額推移の比較結果を見ると景色が一転します。効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の従業員1人あたり営業利益について2005年度から2020年までの推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

日立金属は2019年度、2020年度(図なし)とも営業赤字。特別損失影響を除いても2年連続営業赤字って、会社の存続に関わる状況ですからね。長期推移で圧倒的に高位安定でしたが、好景気とされる2010年代後半でも1人あたり営業利益が右肩下がり傾向。実際は営業赤字転落も時間の問題だったと予想され、コロナショックで製品寿命が縮まったというのが実情でしょう。指標をみると本体からの売却は2017年度くらいから健闘されていた可能性が見え隠れします。

この指標で注目すべきは昭和電線。売上高そのものは高位安定型なので、汎用品もしくは原材料費比率の高い特殊品ビジネス展開は変わらず、固定費削減を進め経営体質が強化されていることが予想されます。

住友電工、古河電工、フジクラの3社は低位安定型。他の指標も合わせると薄利多売型汎用品ビジネスの典型例と言えそうです。数量をしっかり伸ばしている住友電工が一人勝ち、需要を取り込めなかった古河電工、フジクラが低迷というわかりやすい構図ですね。

3-7. 比較⑦:従業員1人当たり平均年収の推移

各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。ここが一番気になるという方も多いのではないでしょうか。有価証券報告書をもとに一応データとして載せましたが、実際には諸手当などで如何様にでも調整できる指標です。あくまで同一会社内での時系列変化のトレンドくらいしかわかりません。

電線メーカー大手5社(住友電工、古河電工、フジクラ、日立金属、昭和電線)の従業員平均年収について2005年度から2020年までの推移を比較した図
各社有価証券報告書から素材さん作成

年収推移グラフでのチェックポイントは2点、リーマンショック前後での変動幅、アベノミクスでの好況期での右肩上がりの傾きです。ただしホールディングス制をとっていて単独従業員数数十人程度の昭和電線HDは、実態と異なる可能性が高いことに注意が必要です。執行役員などの会社法非役員ながら役職の高い方の比率が高く、年齢構成変化の影響も受けやすい為です。

日立金属のリーマンショック後の落ち込みは凄まじいですね。特に管理職の方がボーナスカットの憂き目にあったものと予想されます。住友電工も落ち込みはありますが、ベース水準の高さもあってそこまで重大な影響はなさそうです。また住友電工は唯一リーマンショック前の支給水準を上回っている点にも注目です。

リーマンショック前後での変化が最も小さいのはフジクラと古河電工です。生活設計を考える上で浮き沈みが小さいのは従業員としては良いのかもしれません。ただし繊維業界でもそうでしたが、変化が小さすぎる企業業績は従業員として働く上で一見安心ですが、必ずしも継続性が保証されるほど良好な事業環境というわけでもない点には注意が必要です。繊維産業では品質問題を起こした東洋紡にも同様の傾向がみられます。

【大手5社徹底比較】繊維メーカーで投資なら東レ、高給なら帝人

繊維メーカー国内大手5社(東レ、帝人、東洋紡、クラボウ、ユニチカ)の15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。 業界的に苦しい展開の繊維メーカーですが、東レは一人勝ち状態。投資 ...

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なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。化学以外の素材業界はそれほど高給ではありませんが、特有の住宅関連の福利厚生は含まれていない点に留意する必要があります。

有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。

4. 電線メーカー大手5社の財務比較

各社の財務状況と事業内訳を確認してきます。財務状況はキャッシュフロー(営業CF、投資CF)と営業利益率の15年推移を示しました。素材産業は製薬や繊維ほどではないものの、比較的息の長いR&Dが必要な業界。IR情報は長期的に確認する必要があるため、15年推移としました。

4-1. 住友電工 ~車載ハーネスの雄~

国内最大手の住友電工、略称はSEIですね。住友財閥の素材3社の1角です。電線業界御三家の中でも圧倒的存在感と成長で、投資対象としての魅力もダントツトップです。

車載ワイヤーハーネス市場拡大に伴う需要を着実に取り込み、規模を急拡大させてきました。成長事業故の投資リッチ傾向ながらも、営業CFと投資CFのバランスもとれています。

リーマンショックでの需要減退で低迷期はあったものの、その後の自動車電動化の波を取り込み事業成長に繋げてきました。車載特有の利益率こそ高くありませんが、数量を取り込んできました。電線は地味ですが、自動車電動化の恩恵を大きく受けている企業群の一つと言えそうです。

また情報通信用途のファイバーに加え、環境エネルギー分野の送電線関連で着実に実績を重ねてきました。比較的コンサバな顧客を囲い込んでいるのでしょうか、こちらも利益水準を保ったまま数量増となっています。

住友電工における2005年度から2019年度までの部門別売上(自動車、情報通信、エレクトロニクス、環境エネルギー、産業素材)と営業利益率推移を表した図
有価証券報告書から素材さん作成

また化合物半導体などの産業素材も細々ながら着実に成長を取り込んで抜かりがありません。コロナショックで一時的な落ち込みはあるでしょうが、地味な産業故一般投資家からは放置されがちな分野です。久々にまとまった量の株買いたいと思いました。それくらい魅力的です。

有価証券報告書からの財務データ読み取りは、中堅クラス以上の社会人にとっては必須のビジネススキルです。筆者は下記の本で勉強しました。基本的な内容が簡潔に網羅されている良書です。

4-2. 古河電工 ~

住友電工に続いて電線業界売上げとしては2番手。リーマンショック後の投資圧縮を引きずり過ぎたのでしょうか、業界大目玉の車載ハーネス市場で出遅れました。同じく電線業界御三家の住友電工とは対照的に営業CFも長期低迷を続けています。1株利益は大きく伸びているように見えますが、営業CFが伴っていないことの不自然さ、投資CFのリーマンショック後の落ち込みが大きくその後の回復も遅かったという見方の方が適切でしょう。

2013年には子会社古河スカイと住友軽金属の合弁UACJ設立、15年には投資資産売却、17年には横浜の社宅跡地を75億円で売却等、キャッシュの調達を進めてきました。それでもついてこない営業CF、稼ぐ力自体が向上しているわけではなさそうです。

事業売却やセグメント再編で長期推移の確認は難しいですが、稼ぎ頭の通信向け用途でも営業利益率は落ちてきています。汎用品ビジネスへ転換さざるを得なくなったにもかかわらず、体制が追いつかず社内損益分岐点が高い可能性があります。

それでもコロナショック後も車載ワイヤーハーネス市場成長の零れ球を拾う程度の売上は一時的に増えそうです。しかし汎用品ビジネスの体質に疑問が残り、継続的なマージン確保できる土壌整備は道半ばという意味で投機的水準だと考えます。

古河電工における2005年度から2019年度までの部門別売上と営業利益率推移を表した図
有価証券報告書から素材さん作成

4-3. フジクラ ~組織の危機感乏しい?~

電線業界御三家の1社でもあり、業界3位のフジクラ。特設サイトでは電線業界の「安定的需要」が謳われていますが、CFを見ると安定的にキャッシュが流出しているようにしか見えません。3-2項でも触れたとおり、現実として15年間で安定的に自己資本比率も低下しています。P/L(損益計算書)もプラスとマイナスを繰り返していて、長期で通算してみるとキャッシュは到底残りそうにありません。

営業利益率50%に迫る不動産事業で細々とキャッシュを稼いで本業不振を誤魔化している様子。黒歴史があるんでしょうか、公式HPに2017年度決算までしか掲載されていないのも悪材料ですね。稼ぎ頭の電子電装コネクタ事業も、少し販売が落ち込むだけで営業赤字転落。ここ10年で随分固定費が厚くなり、損益分岐点も高くなったのでしょうか。

決算資料も競争激化や銅貨変動などの外部要因ばかりが並び、競争力強化による経営体質向上に関する施策には一切触れられていません。厳しいですが決算資料は総じて他責思考で、貴重な資本を垂れ流して経営危機が迫って救済合併されるのを待っているようにも受け取れます。自責思考の経営体質にならない限り、厳しい将来が待っていると言えそうです。

フジクラにおける2005年度から2019年度までの部門別(エレクトロニクス、自動車電装、電子電装・コネクタ、不動産)売上と営業利益率推移を表した図
有価証券報告書から素材さん作成

4-4. 日立金属 ~本体からスピンオフ~

日立製作所からの分離売却交渉が発表された日立金属。鉄鋳物最大手Waupaca社を2014年に13億ドルで買収、2017-2018年度は設備投資増強による投資CF増と成長戦略を描いてきましたが、減損祭りの憂き目に。キャッシュフロー自体はそれほど悪い形をしていませんが、実態は減損分を穴埋めするように事業切り売りも進めて何とか投資CFを抑えているという状況です。P/L(損益)は2014年度を頂点にきれいに7年連続右肩下がり。経団連会長職にある中西会長率いる日立製作所が切り離しを進めるのも無理はありません。

磁性材料関連(2019年度430億円、2020年度160億円)、航空材料関係(120億)、その他(2020年度75億円)と巨額減損となっています。FA・ロボット関連、航空機関連の需要減長期化は致し方ない気もしますが、需要増の車載向けでコストダウン遅れ影響も大きく2期連続の営業赤字です。また外部要因による販売数量減に伴う営業利益率低下は致し方ないという見方もできますが、2014年度から2017年度、2018年度は数量微増でも営業利益率が全事業で右肩下がり組織的な闇を抱えている可能性が大きいです。

親会社圧力でも手に負えないとの判断なのでしょう。投資ファンドにガッツリ大ナタ奮って頂いて、経営体質が刷新されることが急務です。

日立金属における2005年度から2020年度までの部門別(特殊鋼製品、素形材製品、磁性材料・パワーエレクトロニクス、電線材料)売上と営業利益率推移を表した図
有価証券報告書から素材さん作成

参考までに救済合併された日立電線の合併前の財務状況も載せておきます。5期連続赤字、しかも特別損失を除く営業利益率も瀕死状態。こうした事業を2012年は吸収合併で誤魔化してきましたが、中西氏が率いる現日立グループは厳しいですね。

4-5. 昭和電線 ~経営刷新の本領はこれから~

1936年、現東芝からの電線事業分離で始まった昭和電線。実は化学メーカー大手の昭和電工とは何の関係もありません。_上記4社と大きく水を開けられ、長年経営不振に苦しまされてきました。しかし2015年度決算での67億円特別損失以降で経営体質が変化し、競争力強化の兆しがみられます。

営業CFを見ても2015年以降、投資CFを圧縮も増強もすることなく営業CFを稼ぎ出せるようになってきています。2017年度には念願の復配もかなっています。

競合他社との子会社経営統合・セグメント再編が多く、長期で事業ポートフォリオを正確にトレースすることは難しいです。しかし2014年度~2018年度決算によると、電力システム関連は売上げ、営業利益率とも伸ばしています。デバイス事業も売上げこそ伸びていませんが利益率の急激な改善が見られます。

電線を軸として電気工事とのパッケージ化による利益率UP、FA機器周りでの信頼性と実績がモノを言う分野での利益で稼いでいる様子。ただ企業規模ゆえ対顧客の立場が弱いのでしょうか、IR資料でもどこでガッポリ稼いでいると明言できないようにも見えます。

従来の電線事業だけではやっていけないという危機感の元、既存事業を軸としたパッケージで生き残る戦略の様子。また社長は歴代文系畑出身でしたが、博士号持ち技術畑で素材産業では珍しい女性社長の長谷川隆代氏が2018年に就任。経営刷新という名にふさわしい経営陣の交代で、実際に従来の事業構造にもメスを入れているプロパーとは思えないやり手経営。今後、この利益体質が維持できるかどうかが楽しみです。

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5. 結論:電線大手なら住友電工、大穴狙いなら昭和電線

繊維業界では知名度No.1の住友電工が実力・安定感ともダントツトップです。自動車電動化の需要増を確実に取り込み、低コスト要求が激しい中でも競争力強化を進めて急成長をしてきました。業界自体は地味ですが成長産業で投資妙味はあると考えます。

薄利多売ビジネスの側面もあるため、従業員目線ではちょっと大変かもしれません。ただ給与水準自体は業界の中でも高く、相応の報酬は期待できそうです。

また大穴狙いなら、経営体質刷新で営業利益率を伸ばしている昭和電線ですね。従来のモノを作って売るだけのビジネスから融合ビジネスへの転換を進めている面白い会社だと思います。リソースが限定される中、大手とは異なる成長戦略を描く経営に期待できます。

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素材さん

東大卒を活かせてない経歴の社畜。工場勤務のヒントを綴ります。転職、結婚、資産形成、資格取得、仕事感。共通点ある方のヒントになれば幸いです。 転職1回目で僻地突入、転職2回目で僻地脱出。/30代前半/東大卒(学部・院)→中小→大手JTC→超大手JTC/素材開発エンジニア/既婚/3人兄弟の真ん中

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