世界的に禁煙の流れが進みつつありますが、喫煙者の数は巷で言われているほど減っているのでしょうか。喫煙率はよく知られているのですが、意外と表に出てこないのが喫煙者数の推移。そこでWHOのデータを基に喫煙者数の推移を確認してみました。
1. 喫煙率は低下傾向
世界的に喫煙率が下がっています。世界的に禁煙が進んでいそうな流れが読み取れます。似たようなグラフを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
確かに喫煙率は右肩下がりです。これだけ見ると日本たばこ産業(JT)、フィリップモリス(PM)、ブリティッシュアメリカンタバコ(BTI)などのたばこ産業はオワコンと言われても致し方ないのかもしれません。
2. 本当に喫煙者は減っているのか?
上のグラフだけを見ると喫煙者が右肩下がりとなっているように感じます。では、実際に喫煙者は単調減少しているのでしょうか。
このグラフは所謂「先進国」が大半を占めるOECD(経済開発協力機構)加盟国の中でも、比較的国民所得の高い10か国を抜粋したものです。たった10か国の喫煙率データだけを見て、喫煙者が減っていると決めつけても良いものでしょうか。
3. 世界の喫煙データ推移
というわけで各種データを見て、本当に世界的に喫煙人口が激減しているのか見てみましょう。
3-1. 推移①:日本の喫煙率と喫煙人口
我が国の喫煙率と喫煙人口の長期推移です。1966年をピークに、日本の喫煙率は一貫して減少傾向です。意外と女性の喫煙者はわずかに減少ながらも低位安定で、男性喫煙者の激減が顕著ですね。これに伴い、特に200年以降の喫煙者現象は拍車がかかっているように見えます。
これとOECD諸国の喫煙率低下データを見ると、確かにたばこ産業はオワコンと言われて久しいというのもあながち間違っていないように思えます。
3-2. 推移②:世界の喫煙率
では途上国を含めた世界の喫煙率の推移を見てみましょう。2000年以前については出典が明確なデータを探せず2000年以降のデータのみ掲載しています。世界的に喫煙率は低下傾向というのは間違いないようです。
とくに南アジア、東アジアの喫煙率低下が目立ちますね。世界的にも2000年から2020年で33.3%から22.8%に減少していて、禁煙の流れは世界的にも進んでいるというように見えます。
3-3. 推移③:世界人口と世界の喫煙者
ここまで喫煙「率」の各種データを見てきました。では喫煙率低下は喫煙人口低下を示すのでしょうか。世界人口が一定であればその通りなのですが、世界人口も変動していますよね。というわけで世界人口の推移を見てみましょう。
2020年以降は国連中位推計となりますが、世界人口は増加し続けています。多少増加ペースは鈍っているものの、2050年くらいまではほぼ同様のペースで人口増加は続き、2100年まで増加が続く推計となっています。
喫煙人口=喫煙率×人口、なので、喫煙率の急激低下が喫煙人口激減に直結すると考えるのはいささか短絡的です。
では喫煙者数の推移を見てみましょう。2000~2025年(2025年は推計)の喫煙者数推移がWHOから報告されています。これを見るとこの25年間では約14億人(2000年)から約13億人(2025年)に減少となっています。率にして7%、あれだけ右肩下がりのグラフを見せられていたせいか、不思議な感じですね。
そうです、世界人口は増加しているので、喫煙人口低下は喫煙率低下ほどのインパクトはないのです。特に西太平洋、東南アジア、アフリカ諸国では喫煙者はゆるやかに増加しています。
一方で欧米諸国の喫煙者推移は一貫して減少傾向ですね。2020年から2025年で、率にして約24%の減少です。「喫煙率は低下傾向」で見たように、先進諸国での急激な喫煙率低下が喫煙者数減として現れていますね。
実際には喫煙人口減少が小幅ながら、たばこ税増税を上回るペースでたばこ販売価格が値上げされています。このデータをみて、たばこ株がオワコンと単純に言い切ってしまっていいものでしょうか。
不都合な真実はあの手この手で隠されてしまいます。いろんな知識を積み重ね、安易な情報に振り回されないようにしたいですね。
4. 結論:巷で言われるほど喫煙者は減らない
OECD諸国での喫煙率低下のグラフが独り歩きしすぎて、全体像が見えにくくなってしまってることが分かりました。巷で言われているように喫煙率は下がっていますが、世界的には喫煙人口はそれほど急激には減っていません。たばこの利益率が同じだとしても急激に市場が冷え切るとは言いきれません。
実際にはたばこ税増税に伴って便乗値上げまでやっています。2020年のたばこ税増税に伴うJTの値上げ例を挙げていますが、喫煙人口の緩やかな低下を上回るペースで値上げが進んでいて、たばこ会社の取り分はむしろ増えています。
JTはたばこ税増税で値上げ。1箱20円の増税に対して50円値上げ。
— S-ゆうぞう@東大卒工場開発エンジニア (@snow_yuhzoh) August 1, 2020
増税前税金/1箱価格
260円/500円→280円/550円
原価は80円とされるので、
粗利160円→190円へ。
単純に考えると16%売上減でも同等の粗利確保できることに。
まだまだ大丈夫でしょ。
切り取られたデータで踊らされず、広い視野で物事をみるようにしたいものですね。
ちなみに2020年6月現在、日本たばこ産業(JT)を200株、フィリップモリス135株持っていて絶賛含み損です。たばこ株ホルダーの戯言として聞き流していただいても良いのかもしれません。
高齢者交通事故についても連日報道されています。高齢者交通事故が急激に増えた錯覚を持ってしまいそうになりますが、そんなに急激には増えていません。情報は色んな印象付けを目的として報道され、バイアスがかかって受け止められます。ごく一部を切り取られた安易な情報に振り回されないようにしたいものですね。
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