国内大手8社(パナソニック、日立製作所、SONY、三菱電機、東芝、シャープ、富士通、NEC)の中から実質SIer(システムインテグレーター)になった富士通とNECを除き、事務機器トップのCANONを独断で加えた7社について、株価、売上高、従業員数、年収、財務状況について推移を比較してみました。
電機業界は売上げこそ突出していないが高利益率を確保し続けている三菱電機が圧勝、売上2位のパナソニックは苦しい展開です。日立、SONYも苦境を抜けつつありますが、まだまだ安心はできません。
歴史は繰り返すという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移も比較しました。安定を目指して、就職や転職を考えている方にも参考になると思います。
1. 総合電機メーカーの3つの魅力
総合電機メーカーといえば家電製品などで馴染みのある会社ばかりです。リーマンショックと家電業界再編の波に晒されて激動の業界ですが、総合電機メーカーの魅力は3つあります。
- 知名度抜群
- 実製品に触れて、一般消費者としての目線を感じることが出来る。
- (番外)成熟~斜陽産業であるがゆえに固定給は高い傾向。(投資家目線ではデメリット)
すみません。早速ですがこれ以上の魅力が思いつきません。
必ずしも直接的な競合関係にあるとはいえない事業部門も多いのですが、明暗が大きく分かれています。とはいえどうにもならないレベルか、救いの芽があるか、というレベルの違いです。実際に程度の差はありますが総合電機業界の業績は長期的におおむね右肩下がりになっています。
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2. 総合電機大手7社とは
「総合電機大手8社」という表現を聞いたことがある方も多いでしょう。売上高の多い順で、日立製作所(6501)、パナソニック(6752)、ソニー(6758)、三菱電機(6503)、富士通(6702)、東芝(6502)、NEC(6701)、シャープ(6753)を指します。
しかし所謂電機大手8社の中でも富士通(6702)、NEC(6701)は実質SIer(システムインテグレーター)です。モノづくり比率が3割以下のともはや「総合電機」とは言い難いため、本記事の比較対象としませんでした。
一方事務機器大手に分類されるキヤノン、リコー、富士ゼロックス、セイコーエプソン。この中で売上高も4兆円に迫る勢いで、事業内容も総合電機に近くなってきているキヤノン(7751)を独自に加えました。
以降本記事における「国内大手7社」は売上高の多い順で、日立製作所(6501)、パナソニック(6752)、ソニー(6758)、三菱電機(6503)、キヤノン(7751)、東芝(6502)、シャープ(6753)を指すことにします。
3. 総合電機大手7社を徹底比較
3.1. 比較①:株価推移
国内大手7社(Panasonic、三菱電機、SONY、日立製作所、CANON、東芝、シャープ)の株価を比べてみます。株式分割・併合などの影響を排除し、相対比較がしやすいようリーマンショック後底値の2009年2月を100としたときの指数で表して比較してみます。
ベンチマークとして日経225平均も入れてあります。三菱電機、ソニー、日立製作所は日経平均から若干ながらアウトパフォームしています。業界の激動の中上手く部門整理などを進めてこれた銘柄ですね。
一方でパナソニック、CANON、東芝、シャープは悲惨です。業界分析を重ねてきていますが、業界の半分が日経平均の半分以下のパフォーマンスというのは、業界全体として苦しすぎます。
3.2. 比較②:全社売上高の推移
2005年度の売上高を100としたときの売上高推移を指数で表してみました。株価の推移と似た傾向を示しています。企業価値は売上高だけでは測れませんが、首位の三菱電機、最下位のシャープは言わずもがなですね。
売上は3位の三菱電機ですが、伸び率ではダントツの首位です。粉飾決算の東芝、液晶への選択と集中を失敗したシャープは言わずもがなですが、売上ツートップの日立製作所、パナソニックが奮っていません。
3.3. 比較③:部門別売上・利益率
全社、部門別それぞれの売上高を比較してみます。
部門別売上割合と利益率比較です。各社度重なる事業再編により同じ会社でも過去との比較が難しい状況で、業界内比較も簡単ではありません。IR資料を基に独自で、リテール電機、情報通信、電子デバイス、産業機器、重電、メディア、金融の7部門に分類・再編集してみました。各社様々な特徴を持っていて、必ずしも売り上げ規模と競争力(≒営業利益率)が比例しないことがわかります。
リテール電機は3種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)や家庭用エアコン、スマートフォン本体等ですね。利益率が低く各社とも足を引っ張っていることが分かります。利益率5%以下のリテール電機比率が高いパナソニック、シャープは構造的に辛いですね。
モノづくり比率という意味では、金融部門とメディア部門(映画・音楽・ゲーム)が6割超を占めるソニーはメーカーから遠ざかってきています。その他各部門とも色々特色があることがわかります。
業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。一口に総合電機と言っても各社で参入障壁の高低、市場からの付加価値の認められやすさは異なり、数字として如実に表れるからです。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。
ちなみに僕が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。業界として拡大が続く中で中途採用も増えていますが、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。
27歳で会社を辞めて結婚した僕の末路
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3-4. 比較④ 自己資本比率の推移
重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。
この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。
御手洗経団連会長率いるCANONは高位安定、売上げ伸び率トップの三菱電機は10年かけて非常に安定ゾーンに差し掛かってきました。粉飾で債務超過となった東芝、業績不振で増減資を繰り返したシャープはひどいことになっていますね。パナソニックは大きな特殊事情は少ないですが、ジリジリ下げてきて戻せていません。
金融部門を持つソニーは事業構造上自己資本比率が低くなりやすいので判断が難しいですが、右肩下がり傾向が気になります。ちなみに国際業務を行う銀行で8%、国内業務のみを行う銀行で4%以上が規定基準です。金融はレバレッジを効かせてお金を働かせてナンボなので、事業として自己資本比率が低い特徴があります。
同じ製造業とはいえ、M&Aで自己資本比率の大幅変動がみられた総合化学業界、製薬業界とは様相が全く違います。営業CF赤字など、競争力低下により自己資本をゴリゴリ削って生命維持してきたゾンビ生命力たくましい企業群が多いことが顕著ですね。
3-5. 比較⑤ 連結従業員数の推移
連結従業員数の推移を比べてみました。チェックポイントは苦しい時期であったリーマンショック(2008-2009年度)前後、電機業界ショック(2011-2012年度)の前後での変化です。
この時期に従業員が減っている企業は、組織のためならメスを入れられます。一方で従業員の忠誠度を上げるのが難しく、待遇が伴わない場合優秀な社員が採用できないリスクも生じると考えられます。
少しずつ増員しながら業績も伸ばしている三菱電機、人員は減らしながらも稼げる構造を再建しているソニーが目を引きます。
3-6. 比較⑥ 従業員平均年収の推移
各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。ここが一番気になるという方も多いのではないでしょうか。ここでは会社法での執行役以上の役員を除き、所謂「執行役員」以下の従業員の平均年収です。有価証券報告書をもとに作成しています。
一応データとして載せましたが、組織体制によって実態より大きく見せることも小さく見せることも出来ます。特別な事情がなければ、同一の会社での時系列変化を見ることで、業績変動による年収への影響度くらいは見られるかもしれません。粉飾で話題になった東芝、業績不振のシャープの2017年度以降の戻り方が気になりますね。さすがは大企業、ほとぼりがさめると社員待遇は元通り。働く分にはいいのでしょうが、投資家目線ではちょっといただけませんね。
なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。特有の住宅関連の福利厚生などは含まれていない点に留意する必要があります。有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。
4. 総合電機各社の財務指標と特徴の比較
4-1. 三菱電機 ~産業機器で堅実に稼ぎ、残るは労務問題だけ?~
4-1-1.CFと営業利益率推移
株価上昇、売上高の上昇幅、自己資本の手厚さともトップクラスの三菱電機。2019年度売上高は4.4兆円と日立製作所、パナソニック、SONYの半分程度と一見目立ちません。しかし暗雲立ち込める電機業界の中で、モノづくりをベースにしつつ売上・株価とも伸ばしているのは流石です。
キャッシュフローを確認します。営業CFは文字通り本業の事業活動での収支を表し、健全な企業はプラスを維持しています。営業CFのマイナスが続くようであればビジネスモデルの崩壊が起こっていると考えてよいでしょう。
投資CFは設備投資やM&Aなどでの収支を指します。次なる成長のためにある程度投資は必要なので、ふつうは営業CFの絶対値よりもすこし小さいマイナスです。
営業CFと投資CFのバランスが取れていて、身の丈に合った規模で、かつ着実な成長のために適切な投資を行っているように見えます。営業利益率もリーマンショック後、電機業界再編の波の2011-2012年は苦しいかったようですが、安定して1桁後半の営業利益を稼ぎ続けています。一方で直近5年間はわずかに営業利益は右肩下がり傾向となっていて、中長期的な安心感は以前ほどではなくなってきている印象です。
4-1-2. 右肩上がりのEPSと1株配も、配当性向は30%台
1株利益(EPS)と1株配当、配当性向の推移を確認してみます。リーマンショックで苦しい時期もありましたが、減配は最小限度にとどめて再び上昇基調を作り出しました。電機ショックの2012年以降は再び安定した利益を稼ぎ続けていますね。
配当性向は30~40%程度と無理して配当を吐き出さず、自己資本増強に充てています。
三菱電機はインバータなどの産業機器での圧倒的なシェアが強みです。産業装置内の電機用機器がばらばらだと予備備品在庫管理や修理対応する設備屋が大変なので、社内でメーカーを統一している会社も多いでしょう。つまり採用された会社ではほぼ永続的に採用され続けることになります。結果参入障壁が高くなり、高収益が持続しやすいのかもしれません。一方で昨今の半導体部品長納期化の影響を受け、強制的な海外製品の代替も進みつつあります。産業機器・部品は何よりも実績が重視されるので、直近2-3年で導入された海外製品の耐久性などが問題なければ、一気にシェアを失うリスクも出てきています。
M&Aは消極的です。2015年の伊空調関連メーカーDeLcklima社を約900億円で買収したのが過去最大と言われています。2018年にもスイスの板金レーザー加工Astes4社を数十億で買収しています。2020年3月時点のれん残高も1400億円程度とこの業界としては少な目で減損リスクも低いです。
電機業界の中で唯一大規模なリストラの実績がないのも三菱電機の特徴です。「追い出し部屋」くらいはあったんでしょうが、あれはどうしようもない社員の行先でもあるので必要悪と考えておきましょう。
しかし労務問題の闇が深いのが最大のリスク。三菱電機⇒シャープの転職もあるくらいなので、転職先としては要注意かもしれません。リストラ実績なくそこそこの成長を見せているので、不安要素はありつつも電器産業の中では比較的安定なのかもしれませんね。投資先としては悪くないでしょう。
4-2. パナソニック ~低利益率リテール家電撤退がカギを握る~
売上げ規模では7.5兆円と業界2位ですが、イマイチ波に乗り切れていません。2009年に子会社化した三洋電機の家電も大きく躍進できず、2011-12年にはプラズマテレビへの選択と集中での失敗で巨額損失を計上してしましました。いったい何年分の利益を飛ばしたんでしょうね。
キャッシュフローも波を打ちながら減少傾向なのは気になる点です。投資はある程度抑制しようという経営層の意向が反映されていそうです。CFだけ見ると2012年度以降は悪くなさそうですが、投資CFは事業売却も込みと考えると実態はCF以上に悲惨なのでしょう。(図はパナソニックHPから素材さん作成)
利益率の低いリテール家電が売上の6割以上を占めているのも辛いです。パナソニックの家電を分解したことがあるのですが、販価に対して原価低減は十分に進んでいます。膨れた間接部門費が邪魔してるような気がします。実際に連結子会社数でみると518社あり、三菱電機206社と売上差を考慮しても多く、やはり間接部門費は高止まりしていそうです。もともと薄利傾向のリテール家電に多大な間接部門費払っちゃダメでしょ。一方で高付加価値品については在庫リスクを負う代わりに定価販売を決めるなど、チキンレース化した家電の価格決定主導権を取り戻す動きも見られます。
強みのはずの電池事業も太陽電池の市況悪化にテスラとの提携解消が追い打ちを掛けます。またのれん残高は2019年3月時点で7200億円と、東芝の悲劇のリスクも潜んでいるのも怖いところ。公式HPのIR情報では2012年度以降しか公開されていないのも怪しいですね。
2016年の米業務用冷蔵庫メーカーHussmann社を1800億円、2015年にもスペイン車載部品メーカーのFicosa社を200~300億円、2022年には米サプライチェーン関連ソフトウェア大手BlueYonder社の8600億円で買収を進めるなど競争力強化を試みてきました。また2020年に24億円で購入したテスラ株を2020年度に4000億円で売却するなど、製造業とは思えない利益の上げ方をしつつ、事業切り売りや人材のリストラも続けています。
また電池ノウハウを目的に買収した三洋電機のお荷物社員はトヨタとの合弁会社に押し付ける等、希望退職以外にも様々な形でのリストラに励んでいますね。その一方で米カンザス主に40億ドル規模の投資を決めるなど、待遇も並程度なので新規で優秀な人を集めるのは結構大変なのかもしれません。
無駄に多い関連会社の整理を進めるとともに、トヨタ、テスラとタッグを組んでいる車載電池事業で一発逆転できれば、投資先としても魅力が増しそうです。
4-3. 日立製作所 ~グループ会社再編で利益率UPできるか~
国内売上高は2019年度で8.8兆円と、15年間売上高業界1位を確保し続けてます。しかし売上高は15年前とほぼ同じ、リーマンショックの2008年度には取り返しのつかないほどの純損失を出しています。(図は日立製作所HP掲載の有価証券報告書から素材さん作成)
また営業利益率向上を経営方針として示し、グループ会社の持ち合い解消を進めています。せっかくバランスのとれた事業ポートフォリオから選択と集中を進めちゃって大丈夫なのでしょうか。大きな動きはこんな感じですが、まるでパズルゲームですね。
- 2012年、日立グルーバルストレージテクノロジーズをウェスタンデジタルへ3400億円で譲渡
- 2012年、英ホライズン・ニュークリア・パワー900億円
- 2015年、伊鉄道会社へ40%出資、2600億円
- 2016年、日立物流をSGHDへ900億円で譲渡
- 2019年、日立化成を昭和電工へ9600億円で売却
- 2020年、日立ハイテクノロジーズを5300億円で完全子会社化
- 2021年、日立金属保有株を3820億円でベインキャピタル手動ファンドへ売却
「選択と集中」で大コケしたパナソニック、シャープと同じ軌跡をたどらなければよいのですが。ハードからソフトという時代の流れに即しているので、ハードへの選択と集中ほどのリスクはないのでしょう。
ただそれほど利益率の悪くない日立化成を売却してしまったのは、かえってリスクを高める方向に行きそうな気もしています。それとも表に出せない爆弾でも抱えていて、爆発する前に他社に押し付けたかったなんて事情があっりするんでしょうか。部門別売り上げと営業利益を見ると、完全子会社化した日立ハイテクとの明確な違いがよくわかりません。それよりもさっさと日立金属片付けた方が良かったように見えます。お荷物の受取先譲渡先は数々の企業を立て直してきたキレキレのベインが買い取りました。
黒字リストラも功を奏してお荷物社員の放逐も進んでいるようですし、今後の業績アップもあるのかもしれませんね。では投資先として魅力的かと言われると、業界の構造的衰退なのでミドルリスクローリターンといったところでしょうか。もちろん人材流出は順調に進んでいて、どれほどの人材が社内に残るのかも未知数です。
4-4. ソニー ~利益順調もCFが心配~
売上は8.3兆円と業界2位、リーマン以降の長い冬の時代が終わり、CMOSセンサー需要拡大と共にやっと春を迎えました。リテール電機以外は利益率も高く、イメージセンサー事業の得企業利益率は驚異の20%超。いい意味で日本企業らしくなくなってきました。全体でも利益率は10%と高水準になってきています。
一方でCFを見ると全体的に営業CFと比較して投資CFが大きい傾向が15年間も続いていることが気になります。成長企業ならよくあることでしょうが、SONYの売上高は過去15年間で15%増。もちろんこの15年間の投資分がイメージセンサー利益拡大で投資回収できれば杞憂ですが、XPERIAのカメラ性能が他機種に比べて劣っているのがちょっと気になる所です。オートメーション監視システムなどの産業機器等への市場成熟までトップシェアを保つことが出来るかどうかが境目でしょう。(図はSONYのHP掲載有価証券報告書から素材さん作成)
I&SS(イメージセンサー)の対売上利益額の突出ぶりとEP&S(エレクトロニクスプロダクツ&ソリューション)の利益率の低さが印象的ですね。非メーカー部門のゲーム・音楽・映画・金融は手堅く稼いでいます。
全体的に高利益率で魅力的ですが、「総合電機メーカー」というよりはコングロマリットとなりつつあります。EP&S事業はスピンアウトや競合との合弁化等もあるかもしれません。今後総合商社のようなコングロマリットディスカウントが加速しそうで、投資先としては様子見した方がいいと思っています。
4-5. 東芝 ~決算は全部ウソだった衝撃から抜け出せるか~
衝撃の粉飾決算で悲惨だった東芝はPC事業の負の遺産、原子力発電ウェスティングハウス減損と債務超過回避の切り売りで見る影もありません。CF、EPS、営業利益率などもコメントのしようがありません。(東芝HPの有価証券報告書から素材さん作成)
粉飾後の訂正決算を見ると、「全部ウソでした」というウソのようなホントの話。いまだに人材流出も続いています。逃げてきた人の話を聞きましたが、競争力のない事業を決算でチャレンジさせるというある意味凄腕なやり方。予算でチャレンジさせられるのも辛いですが、決算でチャレンジする余地があるという発想の転換に驚きました。その頭の使い方を正しい方向で使っていればもっといい舵取りできた気がしますけどね。
東芝の過去決算。下線部が後で訂正された場所。粉飾えげつなかったのね、実際にみるとかなり驚く。
— Snowゆうぞう@東大卒工場開発エンジニア (@snow_yuhzoh) July 5, 2020
同時に利益とか売上は粉飾されてるけど、キャッシュフローは控えめ。監査法人の目を潜り抜けてキャッシュフロー誤魔化すのはかなり大変ということが推測される。粉飾決算からも気付きはある。 pic.twitter.com/Nqume0kvt6
メモリ、メディカルが売却されたのは痛いですが、2019年3月時点でののれん残高は1300億円とほぼ膿は出し切れたのではないでしょうか。悪材料は出尽くしましたが、せっかく育った強力なキャッシュマシーンを現金化してしまったので、しばらく冬の時代は続きそうです。
4-6. CANON ~市場縮小に伴う上手なソフトランディング~
御手洗経団連会長率いるCANONは元々事務機器メーカーですが、今や露光装置などの産業機器事業も大きくなってきたので総合電機として考えてみました。2019年度売上は3.6兆円。御手洗会長の中計からは下振れして、印刷機やカメラの市場縮小に苦しんでいます。(図はキヤノンHPから素材さん作成)
営業CFと投資CFのバランスは取れています。均衡が崩れているのは東芝からメディカル事業を買収した2016年のみ。配当性向は100%に近づいていましたが、2020年度に50%減配と株主へも大ナタを振るいました。これだけ利益が出ていないので致し方ないでしょう。
成長産業で右肩上がりキープするより、斜陽産業で上手にサイズダウンする方が圧倒的に難しいです。その意味では営業CFと投資CFのバランスを絶妙に保ちつつ、市場シュリンクからのソフトランディングに上手に向かっていて、経営手腕は流石なのかもしれません。
4-7. シャープ ~ディスプレイ傾倒からの脱却なるか~
液晶ディスプレイへの選択と集中で失敗したシャープ。台湾ディスプレイ大手鴻海精密工業からの出資を受ける形で首の皮1枚つながりました。ただ液晶業界は中国勢が強く、復活のシナリオが見えてきません。CFを見ても投資圧縮とコロナ渦でのディスプレイ需要増で、何とか営業利益黒字を確保して持ちこたえているような印象ですね。
また大画面化や小型化もひと段落し「とりあえず見えればOK」のニーズが強いのではないでしょうか。半導体のように信頼性・速さ・容量・省電力化などの付加価値をつけにくく、成功のシナリオが描きにくい分野であることも復活が難航している理由の一つでしょう。(図はシャープHPから素材さん作成)
情報通信関連事業も少しずつ伸ばしてきてはいますが、いまだリテール電機(テレビ・家庭用家電など)の依存度は高いです。また3.3項でも触れたとおり、次世代事業であるICT事業は3期連続で営業利益率は右肩下がり。もはや安くなった日本の人件費とレガシーラインを武器に寝技に持ち込んで、ディスプレイで中国勢と競争しつつ細々と生き残るしか道がない印象です。
5. 結論:総合電機株は強いて言えば三菱電機 or SONY
今回は気合を入れて国内総合電機大手7社の徹底比較をしてみました。手堅くいくなら産業機器に強みのある三菱電機、モノづくり以外への転換と成長を追求するならSONYが投資対象としては比較的魅力的だと思います。
ただ三菱電機は労務問題や産業機器長納期化に伴う海外製品代替リスク、SONYはモノづくり部門ではイメージセンサー傾倒等、それぞれ不安要素は残っています。もっと魅力的な業界もあるので、よほど思い入れやブレイクスルーのストーリーが見えない限りおススメできない上級者向けだと思います。
大手企業というだけで投資すると痛い目にあいます。かつて僕はGEで痛手を受けました。銘柄分析をしていれば避けられただけに、投資対象の分析の大切さの教訓になっています。"B to B"ビジネスと違って"B to C"ビジネスでは、消費者である自分や周囲の状況の確認も大事です。清涼飲料メーカーなら、国内大手ではなくコカコーラ社一択でしょう。