塗料メーカー国内大手5社(日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研、中国塗料、大日本塗料)のIR情報15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。
業界的に地味な塗料メーカーですが、業界全体としては実は成長産業だったりします。しかし大手メーカー同士で比べても明暗が分かれているのも興味深いところ。
歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。
1. 塗料メーカーとは
塗料メーカーとは、下地の保護、外観の美装、高機能化、高性能化などを目的として塗布する材料を製造・販売する会社を言います。塗料は樹脂成分、溶剤、着色用の顔料、その他特別な機能を持たせるフィラーや分散剤などの添加剤から構成され、これらの材料選定や配合などをノウハウとして塗料を作る会社ですね、
主成分である樹脂成分、溶剤が石油化学製品を原料とする有機素材であるためでしょうか、上場企業分類では「化学」に分類されます。一方で顔料やフィラー等の添加剤は無機素材からなることが多く、有機素材と無機素材双方を扱うことが特徴ですね。
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2. 塗料業界の大手メーカー分類
塗料は裾野の広い業界で、実は総合化学メーカーなど多くの企業群でもラインナップとして持っている会社もあります。元々地産地消の色が強い業界で、中堅クラスの企業がたくさんある業種でした。しかしながら世界塗料メジャーのM&Aの流れもあり、業界再編が進んでいます。そこで本記事での分類を含め、いくつかの分類を紹介します。
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2-1. 塗料メジャー4社
塗料メジャー4社は国内ではなくて世界で見た分類です。2020年現在の世界シェア順に、Sherwin-Williams社(12%)、PPG社(9%)、AkzoNobel社(7%)、日本ペイント社(5%)となっています。○○メジャーの分類で、日系製造業が未だに存在感を示している数少ない産業ですね。石油メジャーほどインパクトがなく地味なんですけど、結構すごいことです。
2020年現在世界シェア1位のSherwin-Williams社、同3位のAkzoNobel社をはじめ、M&Aで業界再編の流れを受けて拡大してきています。日本ペイントも例外ではなく2019年にはニュージーランドDulux社を買収していますし、不発には終わったものの2017年には世界7位のAxala社との経営統合の話もありました。
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2-2. 塗料大手5社
電線部門をもち、日経ニュースなどで取り上げられる分類です。本記事での大手5社の比較は、これらの5社で実施しています
具体的には、日本ペイント(東証4612、2020年度連結売上高7800億円)、関西ペイント(東証4613、同3646億円)、エスケー化研(JQ4628、同850億円)、中国塗料(東証4617、同820億円)、大日本塗料(東証4611、同620億円)の5社を指します。
ちなみにエスケー化研は業界3位ですが、東証1部ではなくジャスダック(JQ)上場です。大手企業というと東証1部をイメージしがちですが、エスケー化研は珍しい存在ですね。
2-3. 塗料大手2社
塗料メーカー大手企業のうち、売上規模が大きい日本ペイント(2020年世界シェア4.2%)、関西ペイント(同2.5%)の2社を指します。この呼び方も2014年のこの記事だけなので、あまりメジャーな呼称とは言えません。
2-4. 3大塗料メーカー
日経塗料メーカーの大手3社は3大メーカーとも呼ばれます。売上順に日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研と言われ、3社で国内シェア90%を占めています。ただしこの呼び方は投資・経済関連情報では見られず、実際に塗料を使う外壁塗装メーカーなどで呼ばれる表現です。一般人に馴染みのない表現なのも納得ですね。
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3. 塗料メーカー大手5社の15年推移を徹底比較
塗料メーカー国内大手5社(日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研、中国塗料、大日本塗料)の各種指標の15年間推移を徹底比較します。15年間推移を確認している理由は、企業体質の本質を見るためにアベノミクス以降の好景気では不十分と考えているからです。経営危機であるリーマンショック前後の挙動で、伝統ある企業体質が如実に表れると考えています。
また様々な指標から確認することで、各企業の強み・弱みが見える場合もあります。投資や転職などリスクある判断をする場合には丁寧に見ておきたいところです。
筆者は素材産業で材料開発エンジニアをやっています。そんな筆者の年収が気になる方はこちらもあわせてどうぞ。
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3-1. 比較①:株価推移
リーマンショック後の底値付近である2009年2月を100としたときの指数で表して比較してみます。リーマンショック前後を含めた過去15年間の推移を見てみましょう。
ベンチマークとして日経225平均も入れてありますが、2021年4月末現在(グラフ右端)、日本ペイントはなんとリーマンショック底値の30倍、アベノミクス前の2013年比でみても10倍以上と圧倒的です。同じくM&Aを実施した関西ペイントも日経平均からアウトパフォームです。
エスケー化研は日経平均同等ですが、後述のようにオーナー企業体質で株主重視していないことが株価に影響しているとみられます。大日本塗料、中国塗料は日経平均からアンダーパフォームですが、業界最大手以外はリーマンショック底値を下回っていることも多い製造業としては健闘していると言っていいでしょう。
規模拡大が株価に繋がるという分かりやすい構造です。素材産業の他の業界と異なり、ある意味分かりやすいですね。
3-2. 比較②:自己資本比率の推移
重要な財務指標の1つ、自己資本比率を確認します。財務状況の健全性を見る指標の一つで、全体資産のうち返済不要の自己資本の割合を示したものです。この値が高いほど財務が健全で堅実経営であることを示します。逆に低い場合にはたくさん借金をしてレバレッジの高いチャレンジングな経営をしていると言えます。
業界内ではエスケー化研が圧倒的ですね。資金繰りには困っていない地場オーナー企業発祥といった感じでしょうか(※実際にはグローバル展開も積極的です)。
日本ペイントは派手なM&Aをやっている割には自己資本比率は比較的安定しています。トリッキーなスキームでウットラム社と組んで株主価値が最大となるように取り組んできたのも納得の数字ですね。
大日本塗料はリーマンショック前の厳しい時代を超え、自己資本も負けず劣らずの水準になってきました。
塗料メーカーは規模の大小に関わらず財務的には安定な様相です。業界大手5社とも安定水準というのも素材産業としては珍しいですね。
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3-3. 比較③:連結従業員数の推移
連結従業員数の比較です。M&Aが活発である塗料業界の特徴がしっかりと表れている指標のため、確認しておきましょう。2005年度の連結従業員数を100としたときの指数での推移比較、連結従業員数の単純な推移比較の2つを見てみます。
日本ペイントに関して、2014年度はウットラム社との合弁先子会社化、2017年度は米ダンエドワーズ社(買収額700億円)、2019年にはデュラックス社(買収額3000億円)の経営統合でしっかり従業員数を増やしています。本質的に規模拡大とともに従業員数を伸ばしているというよりは、海外展開に必要な関連会社を取り込んだだけですね。関西ペイントも同様です。
エスケー化研は業績好調で従業員を15年間で1.5倍にしていますが、大手2社が圧倒的すぎてあんまり凄さが伝わってきません(いや、結構すごいんですよ)。中国塗料、大日本塗料も微増傾向となっています。地味な割には結構伸ばしてるんですね。
3-4. 比較④:連結売上高の推移
連結総売上高の絶対額推移も合わせて載せておきます。ここでもM&Aの影響が大きすぎて、正直良くわかりません。営業利益を含め他の指標と組み合わせて判断したいところです。
業界分析は投資を検討されている方以外にも、就職・転職を検討している方にも必須です。ただ本記事は投資家目線がメインなので、転職を検討される場合にはOpenworkなどで待遇や社風も合わせて確認しておきましょう。
ちなみに筆者が転職するときには、株価以外の部分は財務体質を含めてしっかりチェックしていました。業界として拡大が続く中で中途採用も増えていますが、新卒応募でもしっかり企業財務の分析をしておきたいところです。
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3-5. 比較⑤:従業員1人当たり売上高の推移
従業員1人あたりの売上高推移の比較結果を確認します。塗料業界はM&Aが活発過ぎて実態が見えにくい為、従業員一人当たり売上高を確認することで分かることもあります。ビジネスモデルにも大きく依存する指標なので一概には言えない部分もありますが、一つの指標としてみてみましょう。
長期推移でみると、やはりエスケー化研がダントツの高位安定型です。日本ペイント・関西ペイントは右肩下がり傾向で、海外M&Aにより日本円換算で1人当たり売上げが下がっていると予想されます。ただ塗料業界はこれだけだと良くわかりませんね。
3-6. 比較⑥:従業員1人当たり営業利益額の推移
従業員1人あたりの営業利益額推移の比較結果を見ると、もやもやしていた景色が晴れてきました。効率的に利益創出しているかという点を確認するために重要な指標です。一般的にはこの値が高いほど稼ぎ方・リソースの使い方がうまく、逆に低い場合には稼ぎ方が下手である可能性が高いです。
ここでもダントツトップはエスケー化研。元々高位安定型でしたが、直近10年でさらに上乗せしてきています。日本ペイントはM&Aで振れ幅が大きくなっていますが、薄利多売型ビジネス展開で圧倒的売上規模を稼いでいるわけでもなさそうです。効率的な経営をしていると言えますね。
同じく振れ幅の大きい中国塗料は長期推移では右肩下がり傾向です。例えば原価構成に占める原材料費比率が高い、原油や石油化学背品などの価格変動リスクをヘッジしていなくて影響を受けやすい、などの理由が考えられます。思いながら決算資料を追ってみると、実際に業績不振であった2018年度決算資料では原価のうち原材料費が8割を占めることが明記されていました。原材料費比率が高いという事は、自助努力でのコストダウン余力が小さいことを意味します。ビジネスモデルが崩壊しているので、小手先の施策で一時的に上向くことはあっても根本改善には時間を要することが予想されます。
3-7. 比較⑦:従業員1人当たり平均年収の推移
各社の従業員「平均年収」のデータを比較します。ここが一番気になるという方も多いのではないでしょうか。有価証券報告書をもとに一応データとして載せましたが、実際には諸手当などで如何様にでも調整できる指標です。あくまで同一会社内での時系列変化のトレンドくらいしかわかりません。
年収推移グラフでのチェックポイントは2点、リーマンショック前後での変動幅、アベノミクスでの好況期での右肩上がりの傾きです。営業利益ダントツトップでありリーマンショック後も1人あたり営業利益を伸ばしていたエスケー化研、年収は見事に横ばいです。営業利益の従業員還元率50%!清々しいまでに会社に搾り取られていることがはっきりわかってしまいました。かといって株主を重視している施策を取っているわけでもなく、喜んでいるのは創業一族だけなのでしょうね。もちろん景気動向によらず安定的にお給料を頂けるのはいいことなんですが。
M&Aが活発な日本ペイントと関西ペイント、業界5位の大日本塗料はリーマンショックでの落ち込みは大きかったものの、アベノミクス景気でリーマンショック前よりも高年収となっています。逆に中国塗料はリーマンショック前から右肩下がりで、ビジネスモデルに不安定な要素を抱えていて、かつ経営陣が自覚している可能性があります。
生活設計を考える上で浮き沈みが小さいのは従業員としては良いのかもしれません。エスケー化研の場合は他の素材産業と異なり、継続性が保証されるように見えるほど安定的な経営をしています。たとえば繊維産業でもリーマンショック前後の給与変動が少なかった東洋紡とは様相が異なりますね。
【大手5社徹底比較】繊維メーカーで投資なら東レ、高給なら帝人
繊維メーカー国内大手5社(東レ、帝人、東洋紡、クラボウ、ユニチカ)の15年間推移を、素材業界所属の材料開発エンジニアが徹底比較します。 業界的に苦しい展開の繊維メーカーですが、東レは一人勝ち状態。投資先としても最も有望です。一方最も高給なのは業界2位の帝人ですが、持続性はあるのでしょうか。 歴史は繰り返されるという考え方から、本記事ではリーマンショック前後を含む過去15年間の推移での比較としました。株式投資を検討されている方だけでなく、就職や転職を考えている方もどうぞ。 1. 繊維メーカーとは 繊維メーカ ...
なお「平均年収」とは給与・賞与・時間外給与が含まれます。化学以外の素材業界はそれほど高給ではありませんが、特有の住宅関連の福利厚生は含まれていない点に留意する必要があります。
有価証券報告書では読み取れない総合職の年収動向は、就職四季報を参考にしましょう。過去3年分が掲載されています。
4. 塗料メーカー大手5社の財務比較
各社の財務状況を確認してきます。財務状況はキャッシュフロー(営業CF、投資CF)と営業利益率の15年推移を示しました。素材産業の中でも世界的にM&Aが活発に行われている塗料業界。IR情報を長期的に確認することで業界の波が感じ取れるため、15年推移としました。
4-1. 日本ペイント ~株価信仰で外資企業へ~
国内最大手の日本ペイント。国内1位の座と引き換えに株価を追求し、2020年に外国資本に魂を売って外資企業となってしまいました。世界の潮流に載ってM&A戦略を進め、急激な投資CF拡大と共に営業CFを伸ばして塗料メジャー4社の仲間入りを果たしました。
1962年から合弁会社で協力体制を続けてきたシンガポール・ウットラム社。これに2014年以降合弁会社の一部子会社化、2019年度にはニュージーランドDulux社を3000億円で買収。さらに2020年には合弁会社の完全子会社化と引き換えに、発行済み株式の46%増資という荒業でウットラム傘下に入るという複雑な金融スキームを実行。株価のためには手段を択ばない姿勢は日系企業として珍しいですね。塗料メジャーとなった親会社であるウットラム社に配当を献上する責務が強化されたので、投資対象としては将来性があるかもしれません。
一方で社内では持株会をやっていた中高年社員は株価爆上がりで上がりモード、一方の若手は比較的安い給与でグローバル展開を余儀なくされる等、社内の歪は相応に大きそうな印象です。若手から利潤が確保しやすい、かつ拡大マーケットでグローバル経験を積める点は魅力的。従業員としても人を選ぶ会社かもしれません。
有価証券報告書からの財務データ読み取りは、中堅クラス以上の社会人にとっては必須のビジネススキルです。筆者は下記の本で勉強しました。基本的な内容が簡潔に網羅されている良書です。
4-2. 関西ペイント
日本ペイントの大型M&Aで、塗料業界売上げとしては2番手。しかし自動車塗料、工業塗料、建築塗料それぞれで1000億円強を売り上げていて、分散の利いた事業構成が特徴です。
2016年度には欧州の塗料大手ヘリオスグループを約700億円で買収して、建築塗料分野を強化しました。IFRS未導入なので、買収意向のれん償却が重く、P/Lでは利益を圧迫されています。ただしキャッシュフローは着実に伸ばしてきており、数年間で投資のもとは取れそうです。
4-3. エスケー化研
業界3位のエスケー化研ですが、安定的な経営体質が数字で明確に表れています。2大塗料メーカーとは1桁規模感が違いますが、色気を出さずに堅実に稼ぐスタイル。
株主構成をみると、四国興産有限会社が26%、自社株14%。実質的なオーナー企業だからこそ、株主の顔色を窺ってリスクを負いながら規模追求に走る必要がないのかもしれません。
なお2021年4月現在で1株40000円程度、最小購入単位が400万円の値嵩株ですが、2018年には5:1の株式併合で最小購入金額が5倍になっています。少数株主なんてハナから相手にしておらず、機関投資家とオーナー一族を向いている姿勢がすがすがしいですね笑。余裕があるにも関わらず配当も細々としてて、従業員給与も渋い感じ。高利益ですが、もろ手を挙げて喜べる状況ではなさそうです。
ただツートップと異なり、無理な規模追求による事業展開可能性は低そうです。そういう意味では投資家としても従業員としても、程々で満足できれば安定感のある企業なのかもしれません。
4-4. 中国塗料
業界内では通称CMPの名で知られる中国塗料ですが、他の4社と比較しても営業CFのは全く安定感がありません。ここ4年くらいは投資圧縮と資産売却でなんとかキャッシュを繋いで、なけなしの配当として拠出している自転車操業状態であることが読み取れます。
足元は低採算案件(事実上の採算割れ案件)の受注抑制によって営業利益確保している様子。しかし売上の8割以上を船舶向け塗料が占めるという偏ったポートフォリオ、原価に占める原材料費率が8割超(2018年度決算資料)という事業構造を抜本的に見直す施策がない限り、業績向上は難しいのではないかという印象です。高付加価値品の販売を目指すというありきたりな姿が描かれていますが、もう一歩踏み込んだ経営戦略と施策を期待したいところですね。
4-5. 大日本塗料
業界内では通称DNTの名で知られる大日本塗料で、国内の建材用途では存在感を示しています。2001年に田辺化学工業と合併し、自動車向けやプラスチック向け塗料を強化してきました。直近5年間は営業CF、1株利益(EPS)とも右肩下がり傾向ですが、この中でも投資をしっかりしてきているところには好感が持てます。
また決算資料では建材塗料の高付加価値化にも取り組んでいる等、具体的施策に踏み込んだ記述があるのは好感が持てます。結果としてコロナショックで低調となっている建材塗料の代わりに、新規分野として橋梁・プラントの新市場開拓も進め、経営陣としてやるべきことにしっかり取り組んでいる姿勢が見えます。事業環境に依存する構造は残っているものの、具体的施策を次々と実施している点で今後の復活に期待したいところです。
5. 結論:塗料大手で投資なら日本ペイント、まったり働くならエスケー化研
塗料業界では売上規模・株価では日本ペイントが実力・安定感ともダントツトップです。世界のM&Aの潮流にも後れを取らず、株主価値を最大化する金融スキームで外資系になる選択をするなど、日系企業としては稀有な行動力を有した面白い企業といえます。一方でかつての塗料業界特有の安定感を求めるにはちょっと厳しくなってきているのも事実ですね。
従業員として安定感を求めるなら、エスケー化研です。残念ながら従業員の付加価値が高いわけではなくビジネスモデルが優秀なため、。従業員へ還元する姿勢は見られません。しかしリーマンショックでも売上・年収ともほとんど落ち込みを見せない安定感は生活設計をする上では安心できるでしょう。創業家一族がウハウハという状況に目をつむれば、意外と悪くないのかもしれません。
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