液体素材を扱う上で避けて通れないレオロジー。その中でも特異な性質であるチクソ性について、材料開発エンジニアである筆者が簡単に解説します。
1. チクソトロピー性とは
チクソトロピー性とは、高粘度流体に対して力が加わった時に可逆的に粘度が下がる性質を言います。ここでの流体とは液状物質を指すことが多いですが、溶媒と固体である分散媒(フィラー)を混ぜたもの、液体のような振る舞いを示しやすい流動性の高い粉体なども含まれます。チクソトロピーを示す性質をチクソトロピー性(チキソトロピー性)と言います。長ったらしいので会話の中では略してにチクソ性(チキソ性)とも言いますね。
高分子素材、有機樹脂と無機フィラーのコンパウンド材料など、”液モノ”の素材において、最終製品の用途に応じて意図的に付与したり排除したりする特性です。素材産業では工程内でのハンドリングしやすいさを変えるために制御する場合もあります。制御に苦労する厄介な特性ですね。
ではチクソトロピー性の2つのポイントを詳しく見てみましょう。
1-1. ポイント①:力が加わった時に粘度が下がる高粘度流体
力が加わった時に粘度が下がる高粘度流体というのがチクソ性のポイントの1つ目です。力が加わるとは、具体的には液体をかき混ぜたり、容器から押し出したり、塗りつけたりすることなどを言います。
例えばケチャップのチューブを逆さにするだけでは、チューブからケチャップは出てきません。ケチャップは粘度の高い流体なので、自重だけで流動し始めません。その逆さにした状態ままチューブを押す(力を加える)とケチャップの粘度が低くなって容器先端から出てきます。
1-2. ポイント②:時間が経つと元に戻る
2つ目のポイントは、時間が経つと元の粘度の高い状態に戻ってしまうことです。
前述のケチャップのチューブの例では、チューブを押すのをやめると容器からケチャップが出なくなります。これは力が加わった後のわずかな時間経過で、低くなった粘度がもとの高い粘度に戻ったからです。
ケチャップやマヨネーズ等の身近な調味料以外にも、ペンキやインクなどの塗料などでも同様の性質が付与されています。塗料業界ではチクソ性を始めとしたレオロジーの使いこなしが肝になる業界ですね。
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2. チクソ性の測定方法
チクソ性は回転式粘度計で測定できます。測定対象の流体の粘性、求める正確性に応じて、B型粘度計、E型粘度計のどちらかで計測することが多いです。
2-1. 簡単に測れるのはB型粘度計
簡単に測るならB型粘度計で測定します。比較的多くの測定サンプルが必要となりますが、回転プレートを液体にドブ漬けして測るだけなので簡単です。現場の工程内検査で出来栄えをサクッと確認するならB型粘度計一択。インクや低粘度スラリー等なら工程内出来栄え検査として簡単に測定できますし、おおよその異常検知もできて便利です。量産品の工程検査に向いている方法と言えます。
ただし、粘度が高すぎる場合はプレートが回らずに正しく測定できないケースもあります。また高精度を求める場合にも不向きです。この場合は次のE型粘度計で測定しましょう。
2-2. 高粘度流体や高精度計測ならE型粘度計
粘性が高い為、少量のサンプルをプレートで挟み込んで、プレートを回転させて測定するE型粘度計で測定することが多いです。経験上使った後の清掃が結構めんどくさいです。
しかし少量で正確に測定できるのが最大のメリット。特に高粘度領域のチクソ性をきちんと測りたい、R&Dで最良組成を見つけたい、といった時にはE型粘度計を使いましょう。R&Dや最終製品検査に向いている方法と言えます。
因みに低粘度流体だと平面ステージに乗せた瞬間に広がってしまうため、、窪みのあるステージで測定することで正しく測れます。チクソ性のある流体なら平面ステージで測れることが多いでしょう。
3. チクソ性の粘度測定結果
B型粘度計やE型粘度計で測定したチクソ性流体特性結果を確認します。流体粘性はせん断速度(単位は"1/s"または"rpm")とせん断応力(単位は"Pa")の関係性で評価します。
チクソ性のある塑性流体は、せん断速度が小さい領域ではせん断応力が高い、すなわち粘性が高いことが分かります。一方でせん断速度が大きくなってくるとせん断応力が低くなっていて、一定以上の力がかかると粘度が急激に低下する様子が表れています。
せん断速度に比例してせん断応力が上がるニュートン流体とは全く異なる挙動を示していて、チキソ性が如何に得意な性質であるかが分かりますね。
4. まとめ
流体形状の素材の中でも特異な性質であるチクソトロピー性についてまとめます。
- チクソ性とは、高粘度流体に対して力が加わった時に可逆的に粘度が下がる性質をいう。
- チクソ性はB型粘度計、E型粘度計で評価できる。
- チクソ性流体の粘性評価結果では、せん断速度が高くなるとせん断応力が低下する。
筆者は素材産業での開発エンジニアですが、レオロジー制御には随分頭を悩ませてきました。そんな筆者が素材産業を志望したマニアックな理由を紹介しています。
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