池袋での痛ましい交通事故報道以降、連日のように高齢者の交通事故「報道」が相次ぎました。しかしある時点を境に急激に交通事故が増えるものなのでしょうか。
高齢者交通事故の報道から、認知バイアスと報道について考えてみます。
1. 高齢者交通事故件数は増えていない2つの事実
1-1. 【証拠①】75歳以上高齢者死亡事故件数は横ばい
75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数の推移を見てみましょう。過去10年間で発生件数はほぼ横ばいとなっていて、急増しているとは言えないことがわかります。
最近高齢者の交通事故が増えているという思い込みはマスコミ報道による錯覚です。池袋事故の一件で勇気をもって会見した方の影響で報道価値が上がり、頻繁に報道されているにすぎません。
最近、老人が車運転して交通事故を頻繁に起こしてる、というのは単なる錯覚やぞ。年間、5000人ぐらい死ぬ交通事故は、人がふつうに死ぬぐらいでは報道価値がないんや。でも、いま流行りの老人関連だと注目されるから、そこだけ報じてるの。
— Kazuki Fujisawa (@kazu_fujisawa) May 15, 2019
1-2. 【証拠②】10万人当たり死亡事故件数も右肩下がり
次に10万人あたりの事故件数をみましょう。運転する人の年齢によらず、交通事故の発生頻度自体は右肩下がりで減少していることがわかります。アイサイト、トヨタセーフティセンス、ホンダセンシングなどの自動ブレーキ搭載が進んできていること等も背景にありそうですね。
ただし75歳未満の高齢者と比べて、75歳以上の高齢運転者、80歳以上の高齢運転者の順に高くなっているのは気になります。人口10万人あたり件数で比べているので、高齢者になればなるほど交通事故を起こしやすい傾向にあるのは統計的事実ですね。
事実を丁寧に追っていけば、世の中の搾取が見えてきます。何かと槍玉にあげられる携帯料金もその1つです。
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2. 高齢ドライバーが標的にされる3つの理由
2-1. 【理由①】10代と80代以上が交通事故を起こしやすい
年代別の事故件数を比べてみると16-19歳、80-84歳、85歳以上が突出しています。高齢者が事故を起こしやすい傾向にはあります。しかし実は10代の若者も若気の至りで事故を起こしやすいのですね。
2-2. 【理由②】高齢ドライバーは増えている
次に高齢ドライバーの推移をみましょう。高齢化に伴い、75歳以上のドライバー、80歳以上のドライバーの数が増えていることがわかります。直近高齢ドライバーを社会問題視する風潮は、高齢者の事故率が高いという事実、高齢ドライバーが増えているという事実が論拠なのでしょう。
2-3.【理由③】報道目的は将来の高齢者交通事故を増やさないための問題提起
人口動態から高齢者数の推移を見てみます。75歳以上人口は2050年まで増加をし続ける予測となっています。人口動態は最も再現の良い統計と言われていて、実際過去の予測通りになっています。
75歳高齢者が今後さらに増え続けるのは確実です。何らかの対策を打たないと今後事故が増える危険性を秘めていると言えるでしょう。高齢者の増加は止められないが高齢ドライバーの増加は抑えよう、この動きが免許返納ですね。
高齢ドライバー事故報道が繰り返されている本当の目的は、高齢者事故が増えないうちに社会問題化させることです。将来事故を起こすかもしれない人に免許を返納させて、将来の犠牲者を増やさないようにすることが真の報道の目的なのでしょう。
3. 交通事故報道と事実からみる「認知バイアス」
3-1. 認知バイアスとは
「マスコミ報道を見て高齢者事故が増えている」と考えるのは、認知バイアスによる影響です。認知バイアスとは思考やものの見方の偏りのことを言います。人が多かれ少なかれ持っている偏見ですね。認知心理学では確証バイアス(confirmation bias)とも呼ばれます。
交通事故の例に当てはめるとこんな感じです。
①高齢者交通事故の報道が最近多い(事実)
⇒②報道が多いということは、高齢者交通事故が増えている(感想、思い込み)
事実と感想、思い込みに直接的な繋がりはありません。しかし無意識のうちに自分に都合の良い、あるいは納得しやすい思考をします。これが認知バイアスです。思い出しやすい例を優先して評価しやすい意思決定プロセスであり、代表性ヒューリスティックスとも言います。
3-2. 交通事故死傷者数は2004年をピークに減少している事実
交通事故のニュースが連日取り沙汰されていると、事故が増えているような錯覚に陥る人が少なくありません。しかし実際には交通事故死傷者数は2004年をピークに減少し続けています。
しかも免許保有者数、自動車保有台数は2017年(平成29年)まで一貫して増加し続けています。つまり高齢者だけでなく、実は全年代で交通事故を起こす確率は下がっているのです。自動車メーカーの安全設計の賜物なのでしょう。
3-3. 認知バイアスを自覚しよう
人間から認知バイアスを完全になくすことはできません。僕も思い込みは激しい方です。しかし偏った思い込みをしやすいと自覚することで、認知バイアスの影響を弱めることが出来ます。
今感じたことは本当なんだろうか?と疑問に思う習慣をつけることです。疑問に思いさえすれば、事実と感想・思い込みを切り分けることができます。
交通事故の例に当てはめるとこんな感じです。
①高齢者交通事故の報道が最近多い(事実)
⇒②高齢者交通事故が増えているように感じる(感想、思い込み)
⇒③そんな急に事故が増えたりするものだろうか?(疑問)
step②で止まらずにstep③まで進めるかどうかという事が重要です。step③のように疑問を感じることが出来るということは、思考の偏りに気づけている証拠です。
step③の後に本記事のように色々調べたりすれば、真実が見えてきます。
4. 高齢者交通事故「急増」は認知バイアスでの錯覚
高齢者の事故が増えたから問題だ、だから高齢者は免許を返納しようという問題認識は誤りです。正しい問題認識は次のとおりです。
高齢者の交通事故件数自体は横ばいで交通事故死亡者数は減少傾向にある。しかし高齢者は統計的に事故を起こす確率が高い。免許を持っている高齢者は増えていて、高齢者の人口は増える傾向にある。だから今後高齢者の事故増が社会問題化する可能性がある。悲惨な事故を起こす前に高齢者は自発的に免許返納しよう、ということです。
恥ずかしい大人にならないためにも社会問題は正しく認識しましょう。そのためには、自分の思考の偏りである「認知バイアス」の影響をしっかり自覚する必要があります。物事に疑問を持つことは重要ですが、それ以上に自分の感じ方にも疑問を持てるようになると真実に一歩近づけますよ。
自分の持っている知識・教養は、貴重な判断材料です。判断材料に乏しい人は簡単に騙されてしまいます。しっかり研鑽を重ねることで、報道によって歪められた視界から真実を見出すことが出来るようになるでしょう。
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