理系・技術職では実現しにくいとされる都会勤務。しかし現実にはイメージ通りの良いこともあれば、思わぬデメリットもあるものです。都会勤務・地方勤務・僻地勤務を経験している筆者が都会勤務の実態について綴ります。
1. 都会勤務とは
都会勤務という響きに何となく憧れを抱く人も多いもの。一口に都会勤務と言っても、人によってイメージが異なることでしょう。国勢調査では日本の大都市圏・都市圏について、下図のように定義しています。しかし、下図赤塗部・薄赤塗部をすべて都会勤務とするのも一般的なイメージから乖離することでしょう。
過去の筆者twitterアンケート、ならびに国勢調査分類をもとに、大都会・都会を次のように定義します。これらの地域で勤務することを本サイトでは「都会勤務」と呼びます。
・大都会→3大都市圏の中心市(東京23区、横浜、川崎、千葉、さいたま、相模原、名古屋、京都、大阪、神戸、堺)
・都会→3大都市圏の周辺市+大都市圏中心市(北九州、福岡、札幌、仙台、広島、静岡、浜松、新潟、岡山、熊本)
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2. 都会勤務のメリット
2-1. メリット①:給料が高い
一般的に都会勤務はお給料が高いと言われます。経済産業研究所(RIETY)では人口密度と1人当たり所得の関係を調査しています。筆者調査によると都会は概ね5000人/km2以上の人口密度を有しており、この範囲の所得は確かに高い傾向にあると言えます。また圧倒的に高いお給料をもらえる自治体は都会にのみ存在するため、平均的に超高給が貰える環境は都会にしかないと言えます。
一方で超高給が貰える都市は限定的であり、都会勤務が必ずしも圧倒的高給であることを意味しません。またアダムスミスにおける「人間の幸福論」では、他者と比較しての相対的優位性で幸福を感じるとされています。周囲が高給取りであれば周囲よりも自身がさらに高給でないと幸福と感じられなくなるわけで、必ずしもメリットばかりとは言えません。
もちろん転職等でより高い給与を得られるようにすれば解決できる問題とも言えます。実際に筆者は新卒就職で失敗したため、転職でキャリアアップという道を選びました。
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2-2. メリット②:車なしでも生活が便利
都会勤務のメリットとして挙げられる生活利便性の高さ。生活利便性という言葉もあいまいですが、ここでは買い物・食事などの日常生活が自動車を使わなくても成り立つことを言うことにします。この場合、国土交通省・全国都市交通特性調査によると、地方都市圏と比較して三大都市圏では買い物に車を使っていない割合は20%程度高くなっています。車がなくても買い物しやすいという意味では、都会の代名詞である三大都市圏に大きな軍配が上がりますね。
2-3. メリット③:子女教育に熱心
2つ目のメリットは子女教育に熱心な層の比率が高いことです。幼稚園は"地域の小学校入学前に集団で学ぶ準備をする「意図的教育」の一環"とされ、託児施設である保育所よりも教育色の強い環境と言われます。三大都市圏の方が非三大都市圏よりも幼稚園利用率が高く、保育所はその逆になっていることからも言えます。
もちろん教育熱心であっても時間的制約で保育所を利用している方もいらっしゃることでしょう。しかし現実として、三大都市圏の方が教育色の強い幼稚園利用率は高く、教育熱心であるということと矛盾しない結果となっています。
また地域区分別の小学校通塾率のデータからも、都会は地方・田舎・僻地と比較して優位に高くなっています。教育の選択肢が多いことも影響しているのでしょうが、通塾率は都会の方が高く教育熱心であることを支持するデータです。
また3-1項のデメリットにも出てきますが、小都市B・町村(人口5万未満)よりも大都市(23区+政令指定都市)の方が教育支出が高いことからも、都会勤務の方が教育熱心な層が厚いと言えます。
2-4. メリット④:近所付き合いが少ない
多様性が叫ばれる中、「他人は他人、自分は自分」という価値観も浸透しつつある現代。人付き合いを煩わしいと思う人にとっては、都会勤務は近所付き合いが少ないというメリットもあります。少し古いデータですが、実際に大都市(23区+指令指定都市)は町村(人口5万人未満)と比較して、ご近所さんと”よく付き合っている”・”ある程度付き合っている”の合計比率で20%弱低くなっています。
もう少し古いデータですが、人口密度と地域活動への参加状況についてのデータでも、人口密度が高いほど町内会・地縁活動への参加状況が低くなっています。ご近所付き合いが煩わしいと感じる人にとっては、都会勤務の大きなメリットにもなりうるでしょう。その分隣人とギスギスしたりすることもありそうなので、一長一短なのかもしれませんが。
実際に筆者も僻地勤務から都会勤務になって、確かにご近所付き合いがドライになったという実感はあります。また同じ都会勤務でも密集地帯在住と郊外でも温度差があり、郊外の方がご近所付き合いは少し多くなりました。
3.都会勤務のデメリット
3-1. デメリット①:生活にお金がかかる
都会勤務のデメリットとして一番に上がるのは生活コストの高さです。このように言うと地方は車が必要だから高くつく、田舎は競争が起きないから物価が高い、などと反論ある方もいらっしゃることでしょう。そういった側面があることは否定しませんし経験的に理解できる部分もありますが、定量的なデータを見てみましょう。
実際に総務省・家計調査で都市規模別の家計支出を比較すると、都会ほど生活コストが高いことがわかります。特に田舎・僻地とほぼ同義である小都市B・町村では27.5万円に対して、自動車関連費用を除く大都市では30.7万円となっています。田舎・僻地での車を持つ生活と比較して、大都市での車を持たない生活でも月々3.2万円も高くつくことになります。もちろん田舎暮らしでせっかく車に乗るんだから良い車乗りたいという欲望に忠実な人と比較すれば、都会と田舎で生活コストが変わらないというケースもあるでしょうが、一般的には都会勤務の方がお金がかかりやすい傾向にあると言えそうです。
具体的には、小都市B・町村を100とすると、賃貸の家賃は166、教育費は191、衣類は138。スケールメリットが聞きやすい家具・家事用品や交通・通信費を除くと、主要な支出は全項目で都会の方が高いです。
これだけお金がかかるとお金も貯まらないというものです。筆者は僻地勤務でお金を貯めたので都会勤務でも余裕のある生活を営んでいますが、同じ職場で新卒から都会勤務の人は金銭面で余裕のない人が多いようです。若い間は生活コストの安い僻地勤務や地方勤務でお金を貯める戦略もありですね。
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3-2. デメリット②:家が狭い
同じ家に住むにしても、都会勤務では狭い家に住まざるを得ません。前述の通り高い家賃を払っているにもかかわらず、地方勤務・田舎勤務と比較すると自宅の広さが狭くなってしまいます。持ち家の場合にはさらに差が広がりますね。ゆったりとした家に住みたい場合、都会勤務では高額の家賃・物件でなければ実現は難しいでしょう。
もともと高収入であれば問題ないのかもしれません。しかし高額な家賃や住宅ローンの支払いに追われ、たくさん稼ぐためにゆったりと寛ぐはずの自宅であまり過ごせないとなると本末転倒です。
3-3. デメリット③:移動に時間がかかる
生活が便利というイメージがある都会勤務。しかし何をするにしても案外時間がかかるのは都会勤務の意外なデメリットです。国土交通省の全国都市交通特性調査によると、例えば三大都市圏の通勤時間は全国平均よりも10分以上長いですし、買い物においても三大都市圏は移動時間が長い傾向にあります。
確かにメリットでも挙げたように都会の方が車を使わなくて済む傾向にありますが、その分移動時間はかかるということになります。何をもって「生活が便利」と感じるかによって、都会勤務がメリットにもデメリットにもなりうるということですね。
3-4. デメリット④:公園が少ない
都会は公園が少ないのもデメリットです。国土技術政策総合研究所の研究資料によると、緑の景観形成によるストレス低減等の心理的な効果、地域の風景・文化の形成など、公園には良好な住環境のための重要な役割があります。
オフィスビルやマンション、下町の密集した住宅街の構成比率が高い都会勤務では、公園が少なくストレスフルになりやすいと言えます。もちろん利便性があれば構わないという価値観もあるでしょうが、ストレスをためて健康を損ねてしまっては元も子もありません。
4. 脱僻地転職で都会勤務となった筆者の体験談
筆者は僻地勤務でのデメリットのうち許容できないものがあったため、都会勤務が可能な職場へと転職しました。高い家賃を払って職住近接の環境も試しましたが、上記のデメリット影響をモロに受けてしまい郊外住まい・長距離通勤をしています。
もちろん当初想定していた都会にしかないメリットもしっかり享受はしています。しかし「何となく都会がいい」と思って都会勤務を始める人には結構辛いと思います。
5. 都会勤務のまとめ
都会勤務のメリット・デメリットをまとめます。僻地・田舎・地方での勤務をしている人にとって憧れの都会勤務も良いことばかりではありません。都会勤務ならではのメリットはありますが、自分の求めるものが本当に都会勤務特有のものなのか今一度よく考えてみてもいいでしょう。何となく都会じゃないから…などと言い訳の材料にし、逃げるように都会勤務をしても良いことはないですから。
メリット | デメリット |
給料が高い | 生活にお金がかかる |
車なしでも生活が便利 | 家が狭い |
子女教育に熱心 | 移動に時間がかかる |
近所付き合いが少ない | 公園が少ない |
また都会勤務にこだわる場合でも、都会で相対的な高給を得るのは容易ではありません。筆者の場合若い間は僻地勤務で軍資金を貯めてから転職し、現在は都会勤務をしています。初めから都会勤務をするよりも経済的にはゆとりを持てるので、キャリアプランとしては一考の価値があるでしょう。
転職カードを切って僻地勤務から脱出して都会勤務になった筆者。そんな筆者の2回目の転職で手に入れたものについて、リアルを綴りました。
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