就職や転職で悩みがつきない勤務地問題。製造業・素材エンジニアとして地方勤務、僻地勤務、都会勤務を全て経験した筆者の立場で、地方勤務について綴ってみます。
1. 地方勤務とは
一口に地方勤務と言っても、人によって想像する状況は様々です。勤務地にまつわる言葉として、都会勤務・地方勤務・田舎勤務・僻地勤務があります。諸説ありますが、本記事ではこの4つをMECE(漏れなくダブりなく)の概念という前提とします。この場合、都会度が高い順に都会勤務>地方勤務>田舎勤務>僻地勤務となります。
どの言葉も明確な定義があるわけではありませんが、僻地勤務・都会勤務は筆者が別記事にて客観的根拠をもとに定義しました。
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1-1. 地方勤務の定義
地方勤務についても諸説ありますが、本記事では地方都市にある事業所で勤務することを「地方勤務」とします。とはいえ一口に地方都市と言っても連想されるイメージはまちまち。文字通りに解釈すると、「地方都市」とは①都会でない地域にあり、②都市機能を有する地域を意味します。この地方都市の2要件を客観的指標に基づいて下記のように定義します。
- 3大都市圏以外で上記大都市圏に該当する地域
- 都市圏(≠大都市圏)の中心市
- 都会に該当しない中核市(政令指定都市に準ずる都市)
筆者の経験から定性的に地方勤務をまとめると、代表的な都市機能の一つである医療の利便性・教育の選択肢は保ちつつ、人口密度・娯楽の選択肢は大都会よりも劣ることが特徴です。たくさん人が集まるところで多種多様な娯楽を楽しみたいという人にはちょっと物足りないかもしれません。
1-2. 地方勤務は都会育ちの人には辛い
大都会の喧騒の中で育ってきた人にとって、地方勤務は「都落ち」とも呼べるほどの屈辱を感じる人も実際にいます。田舎や僻地で過ごしてきた人にとって見れば「車さえあれば」便利なものですが、都会育ちの人にとっては欲しくもない車を買って生活することに抵抗感がある人も多いようです。
1-3. 地方勤務の満足度は勤務先次第
確かに大手金融機関や商社に勤める方であれば、大都会や海外で働く人が多数派。そんな中で一地方都市に配属された身になってみれば、都落ちそのものでしょう。都会や海外のキラキラ社会人満喫生活を送る同期たち、一方で見ず知らずの地方都市で会社との往復を重ねる日々。それは屈辱で仕方ないことでしょう。
一方で大手メーカーや地場の有力企業に勤める人にとっては、満足度が高いことも多いもの。そもそも製造業は田舎・僻地に立地することが多いため、本記事で定義する地方都市配属であればラッキーでしょう。それに勤務先の企業城下町であるケースもあり、その地では勤務先の社名を知らない人がいないということも珍しくありません。名刺を振りかざすだけで羨望の目で見てもらえる・モテる、なんて考えると思わずニヤついてしまうかもしれません。
地方勤務、僻地勤務を経て現在は都会勤務の筆者は、勤務地事情も本音の転職理由でした。ホンネに対して嘘をつかず、かつ建前を合理的に説明して転職理由を構築することで、キャリアアップしながら数年越しの憧れの都会勤務に到着。そんな筆者のキャリアプランや転職理由の構築例の紹介記事はこちらをどうぞ。
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2. 地方勤務の5つのメリット
都会出身の人には敬遠されがちな地方勤務ですが、地方勤務にも多くのメリットがあります。車がないと不便である一方で、車さえあれば快適な生活を営むことができると言えます。そんな地方勤務の客観的なメリットを5つ紹介します。
2-1. メリット①:家賃が安い
よく言われるメリットが地方は都会に比べて住居費が安いというもの。実際に2人以上世帯では、 大都会・都会≒大都市(23区+政令都市)、地方都市~小都市A=中都市(大都市を除く人口15万以上)、田舎・僻地=小都市A(人口5万~15万)または小都市B・町村(その他)の順で賃貸居住者の住居費は安くなっています。
もちろん田舎・僻地ほどではありませんが、地方は都会と比べて賃貸の家賃が安いというのは間違いないようです。
2-2. メリット②:広い家に住める
在住人口・面積ベースで都会(大都会+都会)、地方都市、田舎、僻地の比率をまとめました。人口と面積のバランスが釣り合っているのが地方都市の大きな特徴です。
都市分類 | 人口比率 | 面積比率 |
大都会 | 13% | 1% |
都会 | 38% | 9% |
地方都市 | 19% | 17% |
田舎 | 20% | 23% |
僻地 | 10% | 50% |
都心のように所狭しと乱立したマンションに詰め込まれたような閉塞感はありません。一方で田舎や僻地のように無駄に広大な土地で、移動にばかり時間がかかるという立地でもありません。適度な居住空間のある、都会と田舎の良いところを両立させる地域での勤務といえそうです。
総務省『家計調査』によると、都市規模別実際に2人以上世帯の住居面積では大都市は、賃貸・持ち家とも最も小さくなっています。本記事での分類とはやや異なりますが、大都会・都会≒大都市(23区+政令都市)、地方都市~小都市A=中都市(大都市を除く人口15万以上)、田舎・僻地=小都市A(人口5万~15万)または小都市B・町村(その他)とお考えいただければわかりやすいです。
特に着目したいのは、大都市(政令都市+人口100万以上)と中都市(人口15~100万)の差異です。賃貸・持ち家とも大都市と比較して中都市ではまずますの広さの家に住んでいる傾向にあることがわかります。もちろん田舎や僻地と比べれば狭いですが、まずまずの利便性と家の広さを両立しやすい環境であると言えそうです。
2-3. メリット③:公園が多い
地方都市は都会と比べて公園も多いのも大きなメリット。地方都市は大都会の1.5倍もの公園があります。公園が多いと、子育て世帯であれば気軽に子どもを遊びに連れていけます。そうでなくてもちょっとしたジョギングなどの外出もしやすいですよね。
また都市公園は緑豊かな環境を実現し、良好な住環境を保つ役割もあります。大都会と比べて公園の多い地方都市では住環境が良く、このメリットを享受しやすいというのも地方勤務の大きな特徴です。
2-4. メリット④:電車通勤から解放されやすい
大都会の通勤と言えば満員電車。では地方都市になると満員電車から必ず解放される、とは残念ながらなりません。主要都市の混雑度は下記の通りで、単に地方都市に行ったとしても電車通勤であればそれなりの混雑はします。
しかし都会勤務と異なり、地方勤務の場合には勤務先が比較的分散する傾向にあります。このため職住近接で車通勤・自転車通勤・徒歩通勤の実現性が比較的高いと言えます。
もちろん地方勤務でも車通勤なら程度の差こそあれ渋滞はつきもの。それでも自分のプライベート空間でゆっくりできるという点は、都会勤務にはない大きなメリットと言えます。見ず知らずの人と密な空間を共有する電車通勤から解放される可能性が高いのは、地方勤務ならではのメリットでしょう。
3-5. メリット⑤:娯楽は大都会と同様に楽しめる
地方勤務と言えば娯楽が少ない、という印象もあることでしょう。しかし、国土交通省統計によると、3大都市圏と地方都市では、「趣味・娯楽など楽しめる場所がない」という居住地の不安に差異はありません。地方都市に住んだ経験がない人は敬遠しがちですが、地方勤務は住めば都。都会勤務と同様の娯楽が楽しめると言ってよいでしょう。
3-6. 地方勤務の5つのメリットまとめ
地方勤務の5つのメリットをまとめます。
- 家賃が安い
- 広い家に住める
- 公園が多い
- 電車通勤から解放されやすい
- 大都会と同様の娯楽が楽しめる
地方都市で働くことを意味する「地方勤務」は利便性・快適性・経済性のバランスがとれる魅力的な選択肢です。
3. 地方勤務の3つのデメリット
メリットの多い地方勤務ですが、デメリットも否定できません。ここでは地方勤務で気になる3つのデメリットを紹介します。
3-1. デメリット①:都会よりも少ない収入
地方勤務は都会勤務と比べると収入面で見劣りする傾向があります。1人当たり所得と人口密度の関係を示す図の通り、一般的に地方勤務は収入面では都会よりも劣るといえそうです。
実際に都会・地方とも拠点のある大手企業の場合、都市勤務手当はあっても地方勤務手当なるものを支給している会社は少ないでしょう。同じ会社でも地方勤務のために都会勤務よりも収入が減ってしまう可能性があるというのは歴然たる事実です。
3-2. デメリット②:生活コストは都会と変わらず
都会と比較して安いと言われる地方勤務の生活コスト。2人以上世帯における大都市での生活コスト32.3万円/月に対して、地方都市に相当する中都市は30.7万円/月。一見すると、地方都市の方が生活費は安い傾向にあります。ここでは持ち家の住居費は算出が難しいため、統計データから賃貸居住者の住居費を算出しています。
一方で、大都市では車が贅沢品であることも多いもの。というわけで大都市については、自動車関連の支出を除いた値も算出してみました。大都市(都会・大都会)で車を持たない場合は30.7万円/月、中都市(地方都市)で車を持つ生活が同程度の家計支出となっていることがわかります。
もちろん都市規模が小さい場合には車の保有コストを考えても、生活支出は少なくなります。しかし所謂地方都市クラスで快適な生活を送るためには車保有は必須なので、生活コストについてのメリットはそこまで大きいとは言えません。車はただの移動手段と割り切れればまだマシで、せっかく車を買うからと快適性や贅沢性まで求めると都会勤務よりも却って高コストにってしまいます。
車を買うなら快適性や贅沢性を求めたいけど生活コストも安く済ませたい、という人にとっては地方勤務はお勧めできません。僻地勤務なら比較的簡単なんですけど、地方勤務でもデメリットが気になる人は僻地勤務も嫌ですよね。
3-3. デメリット③:趣味友を探すのが大変
データばかりでは面白くないので、身近な体験ベースでのデメリットも紹介します。地方勤務を経験されている方は学生時代の友人とも疎遠になりがちですが、新天地で新しい友人を見つければ万事解決。筆者にもそう思っていた時期がありました。
競技人口の多いスポーツに関係する友人・知人であれば、比較的簡単に見つけることができます。一方でマイナースポーツや一般的に人気のない趣味であれば、なかなか趣味友達を見つけることもできません。筆者はウィンタースポーツをしていますが、地方勤務・僻地勤務時代にはその地域で一緒に楽しめる人は見つかりませんでした。都会勤務になって近隣都市でたやすく一緒に行ける人が見つかるようになったので、やはり勤務地・居住地と趣味友の見つけやすさは一定の相関があると言えそうです。
4. 地方勤務まとめ
都会出身の人には敬遠されがちな地方勤務ですが、地方都市レベルであればメリットも大きいもの。少々の収入ダウンは避けられませんが、引き換えに得られる5つのメリットも無視できません。特に独り身の間は都会勤務に憧れるものですが、長い目で見れば地方勤務も魅力的な選択肢です。田舎・僻地ほど生活上の不便もなく、都会よりもゆとりのある生活が営めることでしょう。
筆者は2回の転職で地方勤務、僻地勤務、都会勤務を経験していますが、経験的にも子育て世代としては地方勤務が最も過ごしやすいと考えます。1回目の転職では地方都市から転勤のない中小企業に勤務していたにも関わらず、大企業コンプレックス解消のため自ら僻地へ突入してしまいました。中小企業勤務であることの劣等感から解放されたのは良かったのですが、良好な住環境を手放してしまったのは勿体なかったとも思っています。
一方でお金を貯めるなら、地方勤務よりも田舎・僻地の方が有力な選択肢であることも事実です。製造業の中でも素材業界では地方都市・田舎・僻地での勤務地も多い職種で比較的身近でした。筆者は素材エンジニアですが、この職種は地方勤務による収入ダウン影響が小さいです。そこそこの収入で地方勤務するなら、素材産業をはじめとした製造業エンジニアという生き方も魅力的な選択肢です。自分の希望通りの転勤は現実的に望めず転職のリスクが伴いますが、ライフステージによって居住地を変えるのもよいでしょう。それでも都会勤務が良いと思えば、転職で勤務地を変えるという選択肢もありますし、実際に筆者は転職で都会勤務を手に入れています。
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